Nozomi Note

落合の読書メモと思考の記録です。ゆるーくやっとります。

文藝春秋「日本の論点2019」

橘玲「保守でもリベラルでもない安倍一強の理由は「ぬえ」のような多面性にある」

 現代日本の「保守」と「リベラル」を理解する上で決定的に重要なのは、40代と50代の間に政治的な「断層」が生じていることだ。

 読売新聞社早稲田大学現代政治経済研究所が世代別の政党観を調べっところ、60代以上ではもっとも保守的なのが自民党で、旧民進党が中道、共産党がリベラルとなった。これはメディアなどが当然の前提とする保守vsリベラルの構図と同じだ。

 ところが政党観は年齢が下がるにつれて変わっていき、18〜29歳ではもっとも保守的なのが公明党、ついで共産党、旧民進党で、自民党は中道、もっともリベラルなのが維新になっている。驚くべきなのが今の若者が共産党を右派、自民や維新を左派と皆しているのだ。

 日本共産党は、憲法改正や安保法制はもちろん、特定秘密保護法共謀罪、消費税引き揚げから働き方改革築地市場の移転に至るまであらゆることに反対し、現状変更を眼鏡に拒絶することで、有権者の3%程度の岩盤支持層を獲得している。高齢者はこの方針をリベラルと評価するが、若者には保守としか映らない。

 この興味深いデータは「若者が右傾化している」というのが全くの俗説であることを示している。若者は昔も今も一貫してリベラルで、かつてリベラルとされていた政党が右傾化していたのだ。こうしてリベラルな若者は、より自分たちの政治的主張に近い自民党=安倍政権を支持するようになった。

 私たちは右と左が逆になった「鏡の国のアリス」のような世界に迷い込んでしまった。日本の政治を語るなら、まずはこのファクトを押さえておかなければいけない。

世界のリベラル化

 冷戦の終焉とともにバブル経済が崩壊し、1990年代後半には北海道拓殖銀行山一証券など大手金融機関が経営破綻して、戦後日本の繁栄を支えてきた政治・行政・経済の諸制度が耐用年数を超えてきたことを白日の元に晒した。終身雇用・年功序列の日本型雇用も行き詰まり、労働市場では非正規雇用が爆発的に増えていく。ロスジェネと呼ばれる彼らが、正社員の雇用の安定しか考えていない労働組合を見限り、その支援を受ける政党を「保守」とみなすのは当然だ。

 こうした時代の変化にいち早く気づいたのが小泉純一郎で、「自民党をぶっ壊す」と宣言して2001年の総裁選に挑み、熱狂的な小泉旋風を巻き起こして首相の座を射止めた。小泉の劇場型政治を範にしたのが橋下徹で、「大阪から日本を変える」をスロー頑とし政治に新風を巻き込んだ。

 左派の知識人は小泉政権を「ネオリベ」橋本と日本維新の会を「ハシズム」と嫌ったが、若い世代にはそれを「改革」と受け止めた。教育無償化を掲げ、女性が輝く社会を目指し、同一労働同一賃金を法制化しようとする安倍政権も、この改革路線を踏襲している。

 全ての国民が高い教育を受けられることも、子供をうんでもハンディキャップにならない社会も、同じ仕事をしているのに待遇が異なる差別をなくすのも国際標準のリベラルな政策で、安倍首相がリベラルを自称するのは間違ってはいない。

 消費増税、TPP協定加盟、原発再稼働などの安倍政権の政策は、リベラルだった民主党野田政権と全く同じだ。人造り革命で提唱した教育無償化は高校無償化の延長で、安倍政権はますます民主党政権に似てきている。長期政権の秘訣は、民主党時代を全否定するのではなく、丸ごと引き継いだことにある。

 なぜこんなことになるのか。その理由は極めてシンプルで、他に政策の選択肢がないからだ。急速に少子高齢化が進む日本経済は空前の人手不足で、高齢者と主婦を労働市場に参入させ、外国人労働者を増やさなければ回って行かない。

 人生100年時代を迎えて、定年が60歳のままなら老後は40年もある。1000兆円もの借金を積み上げた日本に、ますます増え続ける高齢者の面倒を見る余裕はない。

 保守かリベラルかにかかわらず、誰が政権をとっても、夫がサラリーマンとして働き、妻が子育てに専念する日本型雇用を破壊し、一億総活躍社会を目指す意外にないのだ。

 イギリスのEU離脱を決めた国民投票トランプ大統領の誕生以来、世界も日本も右傾化しているのが常識となっている。しかしこれは逆で、世界を覆うのはリベラルの大潮流で、日本は半周遅れでそれに追随しているのではないだろうか。

 自民党に所属する保守派の女性国会議員が雑誌への寄稿で、「LGBT」に対し「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり生産性がないのです」と述べたことが厳しい批判に晒された。かつてならこうした主張はちょっとした言い間違いですまされただろうが、今では国会前で議員辞職を求める抗議集会が行われ「そんなにおかしいか」という特集を組んだ雑誌は批判を浴びて休刊してしまった。

 東京医科大学が入試の得点調整で女子受験生の合格者を抑えていた問題も、10年前なら話題にすらならなかっただろう。欧米を席巻した#MeToo運動も同じで、人権や性別、性的指向などで人を差別することは強く嫌悪されるようになった。

 敬虔なカトリックアイルランド国民投票では、圧倒的多数で中絶合法化が決まった。日本でも保守派の名だたる論客たちが天皇生前退位に反対したにもかかわらず、世論調査では9割近くが退位を支持した。

 やりたいことは自由にできる、やりたくないことは強制されない、という自己決定権は、リベラルな社会の根本原理だ。今では宗教や伝統を理由に権利を制限することは認められなくなった。だとしたら、日本の右傾化とはなんなのか。私はそれを日本人アイデンティティ主義だと考えている。

 アイデンティティは「社会的な私」の核心にあるもので、徹底的に社会的な動きであるヒトにとって、それを否定されることは身体的な攻撃と同じ恐怖や痛みをもたらす。人るじが進化の大半を過ごした旧石器時代の狩猟採集生活では、集団から排除されることは直ちに死を意味した。自己は社会=共同体に埋め込まれているのだ。

 アイデンティティは、「俺たち」と「奴ら」を弁明する指標でもある。それに最適なのは、「自分は最初から持っていて、相手がそれを手に入れることが絶対に不可能なもの」だろう。

 黒人やアジア系はどんなに努力しても白い肌を持つことはできない。これは貧しい白人たちの間で「白人アイデンティティ主義」が急速に広まっている理由だ。彼らは人種差別主義者というより「自分が白人であること以外に誇るもののない人たち」だ。

 それと同様に「自分が日本人であること以外に誇るもののない人たち」がネトウヨだ。彼らの特徴は愛国と反日善悪二元論で、愛国者は光と徳、反日売国は闇と悪を象徴し、善が悪を討伐することで日本が救済される。なぜならそれが、自分たちが置かれた世界を理解する最も簡単な方法だから。

 ネトウヨに特徴的な在日認定という奇妙な行為もここから説明できる。自分たち=日本人と意見が異なるのは日本人でないものに違いない。事実かどうかに関係なく、彼らを在日に分類して悪のレッテルを貼れば善悪二元論の世界観は揺らがない。彼らは、複雑なものを複雑なままに受け入れることや、自分の中にも悪があり、相手が善である可能性に耐えられないのだ。だが、人種と違って国籍は変更可能だ。こうしてネトウヨは、日本人でないものたちが帰化して日本人にならないよう外国人参政権に強硬に反対し、朝鮮半島に叩き出せと叫ぶようになる。

 今上天皇朝鮮半島にゆかりのある神社を訪問した時、ネットでは天皇反日左翼とする批判が現れた。従来の右翼の常識では到底考えられないが、この奇妙キテレツな現象も「挑戦と関わるものは全て反日」という日本人アイデンティティ主義から理解できるだろう。

ぬえのような政治姿勢

 欧米を中心にアイデンティティ主義=ポピュリズムの嵐が吹き荒れるようになった背景には、グローバル化と知識社会化によって主流派の白人が中間層から脱落しつつあるという大きな変化がある。日本の場合は、アジアで最初に近代化を達成し、圧倒的な経済的豊かさを実現したという自信が、中国韓国の台頭によって脅かされ、大きく揺らいでいることにある。

 今や中国のGDPは日本の倍以上あり、国民の豊かさを示す一人当たりGDPでもシンガポールや香港に大きく水を開けられ、韓国に並ばれようとしている。それによって損なわれた自尊心を回復するために、書店には嫌韓・反中本が並び、外国人が「日本すごい」と絶賛するテレビ番組ばかり作られるようになった。

 しかしこれは、日本に関わりのないテーマ、例えば夫婦別姓同性婚、女性の社会進出などに関してはリベラルで構わないということだ。嫌韓・反中と同様にLGBTを生産性がないと批判した女性議員は、ここを見誤って地雷を踏んだのだ。

 日本社会の底流にあるのが、リベラル化と日本人アイデンティティ主義だと考えれば、安倍一強の理由がわかるだろう。

 安倍首相は既存のリベラル派知識人やマスコミと敵対することで、彼らを嫌悪するアンチリベラル(朝日嫌い)のネトウヨ層を掴んだ。これが政権の岩盤支持層で、森友・加計問題でどんな疑惑が出ても一切影響しないばかりか、かえって支持は強まっている。トランプ支持層も同じだが、政権への批判は「俺たち」への攻撃だとみなされるのだ。

 その一方で安倍政権は女性が輝く社会、同一労働同一賃金などのリベラルな経済政策でウィングを左に伸ばしていく。この戦略が有効なのは、安倍政権と競合する有力な保守勢力が存在せず、これ以上右にウィングを伸ばしても新たな支持層は開拓できないが、リベラル側には広大な肥沃が広がっている体。

 真正保守の安倍首相は、2014年以降靖国神社への参拝を見送り、東京裁判批判など歴史修正主義的な言動を控え、いかなる譲歩も許されないとされた従軍慰安婦問題では朴槿恵前韓国大統領と採集合意を結んだ。保守派の中にはこうした変節に不満もあるだろうが、他に選択肢がない以上、安倍首相を支持する他ない。

 そう考えれば、安倍政権を保守かリベラルかの二分法で議論することに意味はない。長期政権の秘密は、ネトウヨに対しては日本人アイデンティティ主義、経済政策ではリベラル(ネオリベ)、高齢者や旧来の支持層に対しては保守、という多面性にある。

 各種の世論調査では、安倍政権は若者に人気がある一方で、年齢が高くなるほど支持率は下がる。それは安倍政権の進めるネオリベ的な経済政策が高齢者の既得権を破壊するからだろうが、それと同時に捉え所のない「ぬえ」のような政治姿勢が真っ当な保守派には受け入れ難いからではないだろうか。

 18年9月に行われた総裁選で安倍首相は下馬評通り三戦を決めたが、石破茂が地方党員票の45%を獲得したことからわかるように、積極的に支持されているとも言い難い。国民が求めているのは安定で、安倍政権でなくとも別に構わないと思っているのだ。

橘玲

生田幸士「世界初を作り続ける東大教授の『自分の壁』を超える授業」

どれだけバカバカしいことを考え、それを実行に写すことができるか。つまり周囲の批判や嘲笑を気にすることなく、全く新しい発想を提言することができるか。しかも口先だけで大きなことを語るのではなく、その実現のために自分の足を踏み出すことができるか。そうした人々をリスペクトを込めて「バカ」と呼びたい。

 

バカを貫くことは、世間の常識を疑い、常識と戦うことです。そして世間の常識を徹底的に疑い、そこから「新しい常識のありかた」まで考えられる人のことを、人は天才と呼ぶのです。

秀才は与えられた課題を効率よくこなし、既存の枠組みの中で最大限の結果を残すことができます。しかし天才は、枠組みそのものを自分の手で生み出すことができます。

人はどうすればバカになり、どうすれば天才になれるのか。どうすれば誰も考えつかなかったアイデアを産み出し、新しいジャンルを作ることができるのか。この本で解明していきます。

 

日本には技術力と真面目で倫理観の高い人々がいるにもかかわらず、世界で羽ばたく企業が出てこないのでしょうか。人もサービスもモノも飽和状態を迎えた日本において、これからの私たちに求められるのは、新しいジャンルを作ること。誰とも競争しないこと。

「みんながやっているモノ」には手を出さない。「みんながやっていない」からこそ、そこに可能性を見出し、チャレンジする。ブルーオーシャン(新しい市場)は探すのではなく、自らの手で作るものなのです。

ここにビジネスチャンスがある!と察知して、持ち前の行動力で新規顧客を開拓していく人。日本にはこの人材が圧倒的に足りない。

★スティーブジョブスはThink Different「他人と違うからこそ、価値がある」

他人の後追いをしても本当のイノベーションはできない。新しいジャンルを生み出すことはできない。

だが、新しいチャレンジに踏み出した時、周囲の理解を得られないことがあるかもしれません。でもそのチャレンジが本当に新しいものであるなら、理解者は必ず現れます。

褒めることと甘やかすことは違う。褒めるか、叱るかの二者択一でもない。積極的に褒めることをしよう。

 

自分はどんな世の中を実現したいのか?

今世の中には、何が不足しているのか?

 将来あるべき姿から考えていく。それがコンセプト発想です。

★コンセプトが生まれる源、それは夢です。

大きな夢を持つこと。

大きな夢を持つには、バカになる勇気が必要です。

夢とは本来バカバカしいものである。

コンセプト発想。そしてコンセプトから逆算していく。

夢→コンセプト→アイデア→開発の順番。

エジソンライト兄弟、ディズニー、本田宗一郎盛田昭夫手塚治虫などなど。歴史に名を残す人は、何かしらの新ジャンルを作っている。どんなジャンルを作ったのか?という目線で見つめ直すと新たな発見があるかも!

 

ビジネス発想の方針

①新発想・・・すでに存在する技術を「知恵」で繋ぐ

②新原理・・・従来と原理的に異なる「新技術を発明する」

 

ビジネスは制約があるからこそ、人は知恵を絞り、結果としてグランドチャレンジが生まれる。全くあたらしいジャンルで誰も先行者がいない、全て自前でやらなければいけないなど。制約があるから燃える。楽な道を選んでいては、新しい物など生まれない。

 

★具体的な発想のプロセスについて

まずは「現場の声を集めること」が大事。

前提条件がフラフラしているうちは、画期的なコンセプトやアイデアも浮かんでこない。現場の情報は100%取り切ることが重要。

その時重要なのが、質問力。

このポイントを押さえておけば、対象への理解度が何倍にも深まるポイントを突く

 ①聞きながら仮説を立てていくこと

その場で話を聞きながら、自分なりの仮説を立てて解決策を考える。次に掘り下げるべき情報が見えてきたら、納得できるまで聞いていけばいい。

②自分ありきの発想にならないように注意。

目的意識を持つこと。この取り組みのゴールは何かを意識し、「他者ありき」で考えると自分にとっても実り多い結果になる。

★ 怒られることの正しい使い方

それはやりすぎ!という叱責は、制度を変えないと通らないよというサイン。今のシステムのどこが古くなっていて、どこを変革していけばいいのかわかってくる。怒られることを怖がっていては、いつまでも前例主義から抜け出せない。

 

★いい研究とは、10人中8人が反対する研究である

独創とはみんながやらないことをやることだ。難しいことは考えず、ただ自分だけの道を歩んでいけば、それはすなわち独創なのです。

 

★思考パターンを変えるには、生活パターンを変えること

日常の行動パターンを変えることで思考を変える。他者と違う行動パターンを持っていたからこそ、周囲に流されることなく、様々な独創をすることができたのです。

自分が今どのような集団に所属していて、どんな行動パターンが身についているのかを意識しよう。周囲と行動パターンを変えていくことに自覚的になる。

 

★突き抜ける人のルール

①頭を使おう

この1週間ずっといつだって24時間考えていたのか?ご飯の時もお風呂でもトイレでも夢でも思い続けていた?一瞬のひらめきが生まれるのは、膨大な「考える時間」がある。

考え尽くして思考回路を一変させるためのトレーニングとして、一晩で100個を出してみよう。一流の人にとっての「考える」がどれほど厳しいものであるかが理解できる。

 

②手を使おう

なんでも頭の中で考えて、できるorできないを判断しない。手を動かしながら考えること。頭の中のアイデアを絵にして、何パターンも書くことで新たな発想を捻り出す。論文や企画書もそう。頭の中にある思いを可視化することで、全体の構成を考えていく。書いて考え、描いて考え、物を作って考える。

 

③人を使おう

自分が抱えている課題について、誰かとディスカッションする。入り口として相談がある。自分の頭だけで考えるのではなく、他人の頭も利用する。ブレストをする際は、批判しないルールを設ける。

 

発想を独創に変える3つのポイント

本田宗一郎さんは「不常識を、非真面目にやれ」と語っている。常識の枠を超えた「新しい常識」をつくるのだ。新しい常識を作るためには、非真面目な自分でいることが重要。

①違うテーマを考える・・・どんな山を登る?

②違う方法を考える・・・どんなルートを通る?

③違う結果を考える・・・登頂の結果は?

 新しいことにチャレンジしようとする人に対して、勇気をくじく発言をする人がいる。

スタートの時は「絶対にできない」「成功してから見せなさい」

成功してからは「どこかで見たことある」「別に新しくない」

これは必ず言われることなので、また言っとるわくらいの気持ちで受け流そう。

他人は無責任に批判するもの。これ以上話しても無駄だと思ったら「僕、アホやもん」と言って開き直るのが良い。大胆な開きなおりが大事!

 

★プレゼンテーション能力をつけよう

プレゼンや論文は自分の意見を過不足なく伝えることだけでなく、聞き手や読み手に感動を引き出すべき。聞き手を飽きさせない工夫、そして心をゆさぶる感動や工夫が必要。

 

★誰でも天才になれる

天才とは、ただただ生き方が天才。みんなと違った生き方を選べる人。

高い志を持ち、行動力があり、人生の全てを投入できる。

ずっと努力を努力と思わずに続けることができる人。周囲が心配するほどリスクをとる人。スティーブジョブスの言葉で、「海軍になるくらいなら、海賊になる方がいい」というのがある。会社で出世することではなく、出過ぎた杭になる。宇宙人になってしまうことの方が面白い。また、専門外のことも情報収集して面白い人になることも大事。作り手側の熱意ではなく、参加者(ユーザー)の気持ちを考えること。

 

想像力を持った人間力のあるビジネスマンになれる。

どうすればみんなが笑顔になるか、幸せになるかを考える。

 

専門性を2つ以上持つ。

専門以外の教養を深める。

英語力はマスト。海外の人々のメンタリティを体感し、学ぶこと。

誰に学び、誰と働くかを真剣に考える。

 

落合陽一「超AI時代の生存戦略」

仕事になる趣味を3つは持て

「別に誰にも制約されていないけれど、なんとなくやってしまうこと」が趣味。

これからの時代、合理的で画一的ではないことをしようと思った時最初に見つけやすいのが趣味。仕事になる趣味を3つ持とう。

時代の速度より遅い進捗は何をやってもゼロになる

自分でウェブページを作る、デザインをする、メディアを作るなど、、新しい技術や情報を自分から学んでいかなければ存在しないに等しい。

「中間」がコンピュータにやられる

ツールを使うこと、中間の工程をなくすこと、機械にできることを極力やらないことが大事。これからの時代は、時間が唯一のリソースになってくる。

スペシャリストになる

なんらかの専門性を持ち、何かがすごくできる人というのはタスク処理が得意。受験勉強プラスαの能力を持っている。

 

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落合陽一氏の講演

本を読んではみたが、なんとも言えないわかりづらさ、、、。

デジタルネイチャー、つまりテクノロジーが実社会に浸透した状態を延々とフレーミングしている感じ。あんまり面白くなかった。笑

「イシューからはじめよ」

『イシューからはじめよ』の目次

■序章 この本の考え方―脱「犬の道」
■第1章 イシュードリブン―「解く」前に「見極める」
■第2章 仮説ドリブン(1)―イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
■第3章 仮説ドリブン(2)―ストーリーを絵コンテにする 
■第4章 アウトプットドリブン―実際の分析を進める
■第5章 メッセージドリブン―「伝えるもの」をまとめる

図解で重要ポイントをまとめ

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■著者情報
安宅 和人(ヤフー株式会社執行役員 事業戦略統括本部長)
McKinsey & Companyに入社した4年半後、イェール大学脳神経科学プログラムに入学。3年9ヶ月で学位取得した後、同社に復帰。10年以上に渡り消費者マーケティングに従事し、アジア太平洋地域において、飲料・小売り・ハイテクなど幅広い分野でのブランドの立て直し、商品・事業開発に関わる。2008年秋よりヤフー株式会社COO室室長として様々な経営課題のみならず新たな顧客視点でのサービスの創出に携わり、12年春より現職となる。脳科学×戦略コンサル×ヤフーのキャリアから、知的生産の全体観を描いた「イシューからはじめよ」を執筆。

■どんな内容が書いてある本?
生産性の高い人は仕事をする速度が速いわけではありません。
生産性の高い人と低い人の違いは、問題を解く前に、問題の「見極め」をしているかどうかです。
彼らは問題解決の際に、まず最初に解くべき問題を見極めてそこに集中しているから、短時間でも素晴らしいアウトプットを出せるのであると、筆者は言います。
この本では、そんな生産性の高い人の具体的な問題解決の流れを学ぶことができます。

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早速ですが、バリューのある仕事とはなんでしょうか。

バリューの本質はイシュー度(自分の置かれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ)と解の質(そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているのかの度合い)の2つで成り立ちます。

バリューのある仕事とは、イシュー度と解の質の両方が高いものを指します。
そして、解の質よりもイシュー度の方が大事になります。
なぜなら、イシュー度の低い仕事はいくら解の質が高くても受益者(顧客・クライアント・評価者)から見たときの価値はゼロに等しいからです。

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では、どうやったらバリューの高い仕事ができるのか?

解の質を上げることでバリューの高い仕事に到達することはできません。これを著者は「犬の道」と言って避けるべきやり方だと主張しています。イシュー度の低い問題にどれだけたくさん取り組んで解を出しても最終的なバリューは上がらず、疲弊していくだけです。

正しいやり方は、イシュー度を上げて、次に、解の質を上げていくことです。

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イシュー度と解の質を上げてバリューのある仕事をするためには、5つのステップがあります。1つずつ見ていきましょう。

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問題はまず解くものだと考えがちですが、まずすべきは、本当に解くべき問題、すなわちイシューを見極めることです。

「これは何に答えを出すためのものなのか」を明らかにしなければ、後から混乱が発生して、目的意識がブレて多くの無駄が発生することになります。

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イシューの見極めでは、「やってみないとわからないよね」とは言わずに、「こんな感じのことを決めないとね」と言ったテーマ整理程度に止まらず、強引にでも前倒しで具体的な仮説を立てることが肝心です。

理由は以下の3つです。
①具体的にスタンスをとって仮説に落とし込まないと答えを出し売るレベルのイシューにならないから
「〇〇の市場規模はどうなっているか」では何に答えを出せばいいのか、何が正解なのか分かりません。「〇〇の市場規模は縮小に入りつつあるのではないか?」と一歩踏み込んだ仮説を立てることが大事です。
②必要な情報・分析すべきことがわかるから
仮説を立てることで、自分が何に答えを出そうとしているのかが明確になり、本当に必要な情報や必要な分析がわかります。
③分析結果の解釈が明確になるから
仮説がないまま分析を始めると、出てきた結果が十分なのかそうでないのか解釈できません。いたずらに労力がかかるだけです。

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イシューが見えそれに対する仮説が見えたら、次はそれを言葉にして表現することが大切です。

なぜなら、イシューを言葉で表現することで初めて自分がそのイシューをどのように捉えているのか、何と何についての分岐点をはっきりさせようとしているのかということが明確になるからです
(※人間は言葉にしない限り概念をまとめることができない生き物です。)

イシューと仮説を言葉で表現するときは以下の3つを意識しましょう。
①主語と動詞を入れる
②WhyよりWhere、What、How(Whyには仮説がなく、何についてはっきりさせようとしているのかが明確になっていない。)
③比較表現を入れる(「Aではなくて、むしろB」)

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以下の3つの条件を満たすものがよいイシューです。
①本質的な選択肢(答えが出ると今後の検討方向性に大きな影響を与える)
②深い仮説がある(ここまでスタンスを取るのか、というところまで一気に踏み込んでいて、常識を否定・覆すような洞察がある)
③答えを出せる(既存の手法、あるいは現在着手しうるアプローチで答えを出せる)

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イシューを特定する際に、知見や見立てのないテーマの場合は仮説を立てるための手がかりを集めましょう。

時間をかけすぎずに大枠の情報を集め、対象の実態についての肌感覚を持ちましょう。細かい数字よりも全体としての流れ・構造に着目することがポイントです。

この情報収集にもコツがあります。
①一次情報(誰のフィルターも通っていない情報)に触れる
いかに優れた情報でも二次的な情報は何らかの多面的かつ複合的な対象の一つの面を巧妙に引き出したものに過ぎません。
そこからこぼれ落ちた現実は、それを直接見ない人には認知できないのです。
②基本情報をスキャンする
世の中の常識・基本的なことをある程度の塊としてダブりも漏れもなく、素早くスキャンしましょう。
③集めすぎない・知りすぎない
意図的にざっくりやってください。情報収集の効率は必ずどこかで頭打ちになります。
また、情報がありすぎると自分ならではの視点がなくなって、知恵が出なくなってしまいます。画像12

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次は解の質を高める作業ですが、この作業にはストーリーライン作りとそれに基づく絵コンテ作りの2つがあります。
ここでは、ストーリーライン作りを見ていきましょう。

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ストーリーライン作りとは、イシューの構造を明らかにして、その中に潜むサブイシューを洗い出すことです。

ストーリーライン作りには「イシューを分解する」という作業と「分解したイシューに基づいてストーリーラインを組み立てる」という作業の2つがあります。

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イシューは大きな問いなので、いきなり答えを出すのは難しいものです。
なので、答えを出せるサイズのサブイシューに分解しましょう。

その際にはダブりも漏れもなく、かつ、意味のある分解をすることが大事です。
また、多くの典型的な問題にはイシューを分解する型があり、それを使ってしのぐことができます。詳しくは本書をご覧ください。

イシューを分解することで、「課題の全体像が見えやすくなる」「サブイシューのうち、取り組む優先順位の高いものが見えやすくなる」というメリットがあります。

サブイシューについてもスタンスをとって仮説を立てましょう。
曖昧さを排除し、メッセージをスッキリさせるほど必要な分析のイメージが明確になります。

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分解したイシューに基づいて、ストーリーラインを組み立てていきます。
具体的には、分解したイシューの構造と、それぞれに対する仮説的な立場を踏まえ、最終的に言いたいことをしっかり伝えるために、どのような順番でサブイシューを並べるのかを考えるのです。

ストーリーラインは検討が進み、サブイシューに答えが出るたびに、あるいは新しい気づき・洞察が得られるたびに、書き換えて磨いていくものです。

◯立ち上げ段階:
何が見極めどころであり、一体何を検証するためにどのような活動をするのか、という目的意識を揃えるためにストーリーラインが活躍します。
◯分析・検討段階:
イシューに対する仮説の検証がどこまでできているのかが明確になります。
分析結果や新しい事実が生まれるたびに肉付けし、刷新していきましょう。
◯まとめの段階:
プレゼンであればサマリー、論文であれば最初の要約のベースになります。

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組み立てたストーリーラインはまだ言葉だけのものです。次は絵コンテ作りの作業です。

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「絵コンテ作り」とは、ストーリーラインの個々のサブイシューに対して、必要な分析・検証のイメージ(個々のグラフや図表のイメージ)をまとめてることです。

この時に大切なのが、大胆に思い切って描くことです。
どんなデータが取れそうかではなく、どんな分析結果が欲しいのかを起点に分析イメージを作りましょう。
これなら取れそうだと思われるデータから分析を設計するのは本末転倒です。

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絵コンテ作りは大きく「軸の整理」「イメージの具体化」「方法の明示」の3つの作業に分かれます。

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分析とは比較することです。対象同士を比べてその違いを見ることです。
分析では適切な比較の軸が鍵となります。どのような軸で何と何を比較するとイシューに答えが出るのかを考えましょう。

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分析の大半を占める定量分析ですが、実は分析の型は「比較・構成・変化」という3つしかありません。

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原因と結果から軸を考えてみましょう。
軸を考えるというのは原因側で何を比べるのか、結果側で何を比べるのかということです。

例えば、「ラーメンを食べる回数によって肥満度に差が出る」というのが検証したいテーマなら、チャートの横軸は「ラーメンを食べる回数」という原因の軸、縦軸は「肥満度を示す体脂肪率」という結果の軸になります。

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軸の整理が終われば、次は具体的な数字を入れて分析・検討結果のイメージを作っていく段階です。数字が入ったチャートをイメージで描いていきます。

そして、この際に比較による意味合いを表現しましょう。ここで言う「意味合い」とは、比べた結果、違いがあるかどうかです。

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どんな分析手法を使ってどんな比較を実現するか、どんな情報源から情報を得るのかを書いておきましょう。

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ついに実際に分析に入りますが、ここで重要なのが「いきなり飛び込まない」ことです。
最終的な結論や話の骨格に大きな影響力を持つサブイシューから手を付けましょう。それが本当に検証できるのかについて答えを出してしまいます。

重要な部分をはじめに検証しておかないと、描いていたストーリーが根底から崩れた場合に手がつけられなくなってしまうからです。

具体的には前提と洞察の部分が重要なサブイシューになります。

また、サブイシューについて検証するときにはフェアな姿勢で検証しなければなりません。
自分たちの仮説が正しいと言えることばかり集めてくるのはNGです。
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実際に手をつけてみると次々にトラブルが発生するものです。
このようなトラブルを予防するために、できる限りヘッジをかけておきましょう。

ここが崩れたら話にならないというような重要論点については二重三重の検証に向けた仕掛けを仕込んでおいて、1つや2つが転んでもなんとか全体としてのイシューを検証できるようにしておきます。

よくあるトラブルとして以下の2つがあります。

◯トラブル①:ほしい数字や証明が出ない
対策:構造化して推定する・足で稼ぐ・複数のアプローチから推定する(ことで対策をします。)
◯トラブル②:自分の知識や技では埒が明かない
対策:人に聞きまくる、解決のめどがつかなければその手法に見切りをつける(ことで対策をします。)

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イシュー、それを元にしたストーリーラインに沿って分析・検証が済んだら、あとはイシューに沿ったメッセージを人に力強く伝わるかたちで論文やプレゼン資料にまとめていきます。

具体的には「ストーリーラインの磨き込み」と「チャートの磨き込み」の2つのステップがあります。

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ストーリーラインを磨き込みは、3つの確認プロセスで行います。
①論理構造を確認する
全体のストーリー構造が論理的であるかどうかを確認する
②流れを磨く
リハーサルをやりながら手を入れていきます。
実際にチャートを手元に置いてめくりながら説明してみると、流れが悪いところ、締まりがないところ、補強が必要なところがすぐに分かります。
ストーリーの修正を行って、「わかりやすい」「聞いていて引っかかるところのない」ストーリーにしていきます。
③エレベーターテストに備える
20〜30秒程度で概要を簡潔に説明できるかどうかをテストしましょう。
このテストによって自分がそのプロジェクトや企画、論文についてどこまで本当に理解し、人に説明しているかについて測ることができます。

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ストーリーラインを磨きこんだら、チャートの磨き込みです。メッセージ・タイトル・サポートの3つの要素を揃えて、情報源を書いてください。

以下の3点を意識すると、優れたチャーを作ることができます。
①1チャート1メッセージを徹底しましょう。
②縦と横の比較の軸を磨いてください。
サブイシューに答えを出せる明確な比較にします。
③メッセージと分析表現を揃えましょう。
同じ構成のチャート・図表であっても様々な表現方法があります。メッセージと分析表現を揃えるとは、メッセージを明確に検証できる、分かりやすい分析表現に磨き込むことです。

ここまでできればメッセージドリブンのステップも終了です。
もう一度、誰かを前にしてプレゼンしてみて、問題がなければ作業は終了です。

「考える技術・書く技術」

【追補A 前半】


追補Aでは、論理的推論(論理的思考に近いが、同義ではない)についての説明をいたします。
まず、当該書籍では「理由づけ」という言葉が散見されますね。
本書の中で「理由づけ」という言葉が出てくる箇所を探してみると、追補Aの「分析的問題解決における不明推測法」の節に「すべての理由づけのプロセスにおいては、3つの基本要素を相手にする」と書いてあり、第1部第5章に「演繹的理由づけ」「帰納的理由づけ」の節があります。
しかし、これは訳し方が変ですよね。この理由づけという言葉を「推論」という言葉に置き換えると、意味が通りますね。
「すべての推論のプロセスにおいては、3つの基本要素を相手にする」「演繹的推論」「帰納的推論」になります。
文脈から考えると、この「理由づけ」という言葉はおそらく"reasoning"を訳したものものだと思われます(洋書の方を確認していないので単なる憶測ですが)。
reasoningの適訳は「推論」であり、このように解釈すると本書の内容が理解できるのではないでしょうか。
では、「理由づけ」ではなく「論理的推論」の説明をして行きます。

●論理的推論とは何か

 

論理的推論とは、文字通り論理的に推論することですが、それでは「論理的」や「推論」はどのような意味なのでしょうか。
「推論」とは、既知の情報や与えられた情報をもとにして未知の情報を導くことです。
そして、次の3つの要素を含むものが「論理的な」推論と言えます。
①ルール(規則)
・世の中のものが形作られるその方法についての考え
ex)売上を形作る要素は販売数量と価格である、価格を高く設定すれば販売数量が減って売上が低下する
・普遍的に成り立つ性質
ex)長方形の面積は縦の辺の長さ×横の辺の長さで求められる、F=ma、PV=nRTなど
・傾向として一般的に成り立つ性質
ex)人間は死ぬ(不老不死の人間が将来的に誕生する可能性を考慮してあえて一般的に成り立つ性質に分類した)、雨が降ると芝生は濡れる、独占禁止法の目的は生産と流通の活性化である、次の3つの条件を満たす企業は全て買収に値する、4つのことをうまく行うと生産数量が増大する
などのこと。

ざっくり言えば、ルールは「抽象」のこと。
追補Aには、「世の中のものが形作られるその方法についての考え」とだけ書かれているが、少々分かりにくいので3つに分けた。
②ケース(事例):世の中に存在し、観察される個々の具体的な事物や事例、事実などを指す。
私、彼、ポチ、x^2+2x+1=0の解を求めよ、円周率が3.05より大きいことを証明せよ、A社が価格を高く設定した、Apple社の売上が低迷しているので解決して欲しい、北朝鮮が核ミサイルを発射する恐れがあるので解決すべきだなど。

ざっくり言えば、ケースは「具体」のこと。
③結果:ケースにルールを適用した場合に予測される出来事。
有名な例としてはソクラテスの三段論法が挙げられる。「全ての人間は死ぬ(ルール)。ソクラテスは人間である(ケース)。ゆえに、ソクラテスは死ぬ(結果)」という論法。他の例を挙げると、ルールが「長方形の面積をS、縦の辺の長さをa、横の辺の長さをbとすると、S=a×b」だとして、ケースが「a=4、b=3」だとすると、出力される結果は「S=12」となる。

論理的推論に含まれる要素は以上3点です。
そして、これら3つの要素を含みつつ既知の情報から未知の情報を推論する行為のことを論理的推論と定義します。
ちなみに、論理的推論は論理的思考とは異なります。論理的推論は既知の情報に基づいて未知の情報を推知することですが、論理的思考は必ずしも推論とは限りません。例えば、類推はA≒Bという式で表すことができるので論理的ではありますが、未知の情報を推論するわけではないので論理的推論とは言えません。論理的推論のパターンはあくまで以下の三種類です。

演繹法(deduction):ルール→ケース→結果
帰納法(induction):ケース→結果→ルール
③仮説法(abduction):結果→ルール→ケース

論理的推論にはこれら3パターンしかありません。
逆に言えば、どのような問題を相手にするにせよ、問題を解決するにはこれら3つの思考法のうちのどれかしか用いないということです。
それぞれの違いは、ルールとケースと結果を巡る順序です。下図をご覧ください。どこから出発するかによって思考法が変わります。ルールから出発して時計周りで周回すれば演繹法。ケースから出発すれば帰納法。結果から出発すれば仮説法になります。つまり、与えられた情報や既知の情報が何かによって、取るべき推論パターンが変化します。

ルール、ケース、結果の順序

では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。

演繹法(deduction)
▪️どのような性質か
演繹法は、2つの前提(ルールとケース)から結論を導く論証形式です。ざっくり言えば、抽象的な情報を個々の具体的な事例に当てはめて結論を導く考え方です。
この時、ケースはルールの主語か述語のどちらかに対して言及している必要があります。先ほど挙げたソクラテスの例や四角形の面積Sを求める手続きが演繹法に該当しますが、
ソクラテスの例では「全ての人間は死ぬ(ルール)。ソクラテスは人間である(ケース)」となっていて、ルールの主語がケースの述語になっていますね。つまり、共有する単語が存在するということです。
さらに、四角形の面積Sを求める手続きにおいては、ルールとケースの間で縦の辺の長さaと横の辺の長さbを共有しています。
以上が演繹法の基本的な性質ですが、これだけでは使い方が分からないと思うので、使い方を説明しましょう。
▪️どのように使うか
演繹法は主に数学者が用いる推論パターンです。
まず、中学や高校レベルの数学・理科の問題を解く際は、どのような問題であれ演繹法に従います。ルール(定理や公式、定義など)をケース(個々の具体的な問題)に当てはめて答えを導くので。
しかし、演繹法は理系科目の専売特許ではありません。日常生活やビジネスの諸問題でも適用されます。いわゆる「原理原則」がルールに当てはまります。古典に書かれているような原理原則を各事例に適用して結論を導くことは、演繹的な推論と言えます。
演繹法を使うためには、ルールを知っておく必要があります。数学や理科で言えば定義や定理。ビジネスで言えば、原理原則と言われるもの。
演繹法の利点としては、ルールになるようなものは基本的に数が少ないので、演繹的推論ができると膨大な暗記をする必要が無くなるってことですね。一方、解法暗記(類推)による解決の仕方では、膨大な暗記が必要になるので、大変な労力を伴います。
帰納法(induction)
▪️どのような性質か
帰納法は、いくつかの事例や事実を集めてその共通点を見出し、共通する一般的な性質を導く方法です。
例をあげると、「カラスa1は黒い。カラスa2も黒い、カラスa3も黒い。よって、全てのカラスは黒い」と一般化するものが帰納法にあたりますね。
他の例としては、「成功法則」などが挙げられます。成功者を観察した結果、いくつかの共通点が見つかったので一般化してまとめ上げたもののことです。
▪️どのように使うか
帰納法は主に科学者が用いる推論パターンです。
帰納法の注意点としては、帰納法はあくまで蓋然的に(確率的に)正しいとされる推論に過ぎないということです。
カラスが過去・現在・未来の全ての時系列や全ての場所において黒い保証はありません。遺伝子の変異による白いカラスが発見されるかもしれないので。
さらに、成功法則も100%成立するものではないですね。あくまで確率的に高いかどうかの話に過ぎません。
●仮説法(abduction)
▪️どのような性質か
これは仮説思考のことです。通称はアブダクション
ある出来事(結果)を見たときに、それに対して仮説を立てる考え方で、例えば、「今朝見たら芝生が濡れている(結果)→雨が降ると芝生が濡れる(ルール)→昨夜雨が降ったのかもしれない(ケース)」と推論するのがアブダクション的な考え方ですね。
アブダクションは仮説思考のことですが、時にルールは暗黙知になります。たとえば、普通の人間であれば「今朝見たら芝生が濡れている(結果)→通常、雨が降ると芝生が濡れる(ルール)→昨夜芝生が降ったのだろう(ケース)」といった推論をせず、「芝生が濡れてるから昨夜雨が降ったのだろう」といったように、ルールを無意識のうちに省略して推論します。
しかし、このような無意識の処理は複雑な問題であれば困難になります。経験を積んでない人なら、丁寧に要因分析や解決策立案をする必要がありますね。
ただ一方で、相当な経験を積んで仮説思考に慣れている人であれば、ちらっと現場を眺めたり現象を観察するだけで、即座に要因と解決策が導けるでしょう。
論理的というよりはむしろ直観的ではありますが、問題解決の要となる考え方であり、「考える技術・書く技術」の第3部では、アブダクションによる問題解決手法を提示しています。
▪️どのように使うか
アブダクションは主に臨床医や探偵、ビジネスマンが使う推論パターンです。臨床医は患者の症状を聞き、それに対して「これが原因なのではないか?」という原因の仮説を立てて、詳細情報を患者に質問しますよね。
このように、起きた結果(=症状)から直観的に仮説を立てるのがアブダクションです。この考え方は最も身近なものかもしれません。
論証力は弱いですが、直観的なので思考スピードは速いです。ビジネスのようにスピードが重視される世界では重宝される考え方ですね。

3つの推論の特徴比較



【第8章 問題を定義する】

前述した三種類の論理的推論を押さえた上で、問題解決の体系的な技法を学びます。それが連鎖分析プロセスです。
連鎖分析プロセスは次の5つのステップを踏みます。
フェーズ1:問題はありそうか?(問題があるかどうかの確認を行う)
フェーズ2:問題はどこにあるか?(問題が発生した状況を簡潔に述べる。どこで問題が発生したか)
フェーズ3:問題はなぜ存在するのか?(フェーズ2に基づいて、より詳しい要因分析を行う)
フェーズ4:問題に対し何ができるか?(問題に対する解決策を複数リストアップする)
フェーズ5:問題に対し何をすべきか?(解決策を絞り込んで1つに定める)

大きな流れで言えば、問題があるかどうかの確認(フェーズ1)→要因を分解して真因を特定(=論点設定。フェーズ2と3)→解決案立案(フェーズ4と5)という流れになります。勘の良い方は気づいたかもしれませんが、これはアブダクションの考え方と言えます。フェーズ1が結果に該当し、フェーズ2と3がルール(要因の構造化)に該当し、フェーズ4と5がケース(解決策)に該当します。問題解決における推論パターンは演繹法帰納法アブダクションの三種類ありますが、ビジネスの問題を解決する場合はアブダクションを使用する場合が多いです。スピードが非常に速いので。

ところで、問題と直面した時にいきなり解決策を立案する人がいますが、あれは一部の簡単な問題にしか使えない方法です。多くの問題では、問題を引き起こした要因を分析して、真因(=論点)に対してピンポイントで解決策を与える必要があります。
お医者さんはまさにその方法で臨床を行ってますよね。例えば、「お腹が痛い」という理由でお医者さんに診断してもらうと、場当たり的に解決策を提示するのではなく、「いつからお腹が痛いのか」「慢性的に痛いのか」「具体的にどのような症状が出ているのか」「何か薬は飲んでいるか」「何か持病はあるか」「両親もお腹が弱いのか」などの質問を通して原因を探ってきます。質問で原因が判明しなかった場合、CTや胃カメラで原因を探ります。そして、原因が分かり次第、それに対してピンポイントで解決策(薬など)を与えます。
以上の例からも分かるように、まずは問題を引き起こしている犯人を突き止めることが大切です。
また、要因分析のフェーズであれ解決策提示のフェーズであれ、思考が行き詰まって前進できないことがあります。みなさんも経験ありますよね。「何をどう考えれば良いのか分からない」となることが。こういう場合も、「なぜ思考が行き詰まっているのか?」と考えることで、前進できることがあります。つまり、思考の阻害要因を突き止めるってことです。

加えて、これから解説する問題解決の体系的な技法を身につけることによってどのようなレベルになるかイメージを掴んでもらうため、以下のリンクを参照して下さい。
http://kaz-ataka.hatenablog.com/entry/20081018/1224287687

では、それぞれのフェーズを詳しく見ていきましょう。第8章では、フェーズ1と2を扱っています。

●フェーズ1 問題はありそうか?

そもそも問題とは何でしょうか?まずは用語の定義からしましょう。RはResultの頭文字です。
R1:望ましくない結果(多くの場合、現状を指す)。1つしかない場合もあれば複数存在する場合もあるが、いずれも簡潔に述べるようにする。
R2:望ましい結果(=理想や目標)。成果を計測できるように、具体的な表現や定量化された表現にすること。必ずしも定量化する必要はないが、必ず計測可能な表現にすること。もし具体的に表現できない場合は、R2を具体的に表現することが問題解決の第一ステップとなる。R2を定量化するコツは以下の通り(以下の方法は本に記載されていない)。
①目標を「金額」によって数値化する
ex)売上○億円達成、営業利益○億円達成、年収○○万円達成など。
②目標を「回数」によって数値化する
ex)クレームを月○回に抑える、お客様を一日に○回笑顔にする、筋トレやランニングを週に○回行うなど。
③目標を「率」によって数値化する
ex)売上を前年比120%にする、コストを30%削減する、市場シェアを30%から50%にするなど。
④目標を「時間」によって数値化する
ex)ある作業を○時間でやる、売上○万円を△月までに達成するなど。
⑤目標を「点数・ポイント」によって数値化する
ex)10段階評価で7を達成、自己評価・他者評価でおおよそ80点を達成など。
⑥目標を定量化可能になるまで分解する
ex)「仕事ができるようになりたい」という目標に対して「そもそも仕事ができる人って何だろう」と問いを投げかけ、仕事ができる人の要素を分解していく。例えば、問題解決能力であったり、コミュニケーション能力であったっり、行動力である。しかし、これではまだ定量化が難しいので、定量化しやすくなるまで分解を続けていく。

問題(problems):R2-R1のこと。言い換えると、R2-R1(=理想ー現状)のギャップを生み出す要因やR2-R1の間にある障壁のこと。
理想と現状を隔てる要因は複数存在するので、当然問題も複数存在することになる。
なお、本には書いていないことだが、R1そのものは問題ではない。あくまでファクト(=現象や観察事実)に過ぎない。R1を引き起こし、R2に到達する妨げをしている要因が問題と言える。例えば、「お腹が痛い」は問題ではなくR1そのものである。問題となるのは、腹痛(=R1)を引き起こしている種々の要因(ストレス、血圧、薬の副作用、生活習慣の乱れなど)である。これらの要因がR1を引き起こし、そしてR2とR1のギャップを作り、R2(=腹痛がない状態)に到達する妨げをしている。
論点(real problem):これも本には書いていないことだが、その複数存在する問題(=要因)の中で、真に解くべき問題(=解決策を与えるべき問題)のこと。真因とも言える。つまり、解決すればR1からR2に向かって大きく前進できると考えられるもの。多くの場合、時間やお金などのリソースが限られているため、全ての問題に対処していてはキリがない。解決しても大して効果が上がらない問題もあれば、解決することで大きく前進できる問題もある。そこで、複数の論点候補(=問題=要因)の中から問題解決に直結しそうな問題を1つ、多くても2つ選び出し、それに対して解決策を与えて実行するようにする。
論点設定は、いわゆる要領の良さに関わるもの。要領が悪い人は行動にメリハリがなく、あれもこれも手をつけたがる傾向にある。一方、要領が良い人は、しっかりと成果を出せるツボを押さえて短時間かつ低労力で効率的に問題を解決する。何をやるにしてもこの論点設定は非常に重要で、これができるかどうかでProblem Solverとしての質が決定されると言っても過言ではない。
ちなみに、混同されがちな言葉として課題(issue)という言葉があるが、problemが解決すべき問題を表すのに対して、issueは賛成する人がいたり反対する人がいたりする賛否両論の論題を表す。つまり、Yes/Noに分かれる論題のこと。
したがって、「どのように機能を再構築すべきか?」はproblemにはなるが、issueにはならない。「機能を再構築すべきか?」はissueになる。
問題発見:論点を見つけること。フェーズ1で行われる問題(R2-R1)があるかどうかの確認は、問題発見ではない。
問題解決:R1からR2に移動すること。つまり、問題に対して解決策を与えて実行し、障壁を取り払ってR2に到達すること。R2に到達しなければ問題が解決されたとは言えない。R2に到達して初めて解決したことになる。基本的には、問題解決は疑問とそれに対する答えがセットになっている。つまり、どうしたら良いのか?なぜなのか?どちらが良いのか?これは正しいのか?といった種々の疑問に対して答えを与える作業が問題解決である。わかりやすく言えば、Q&A。したがって、効率的に問題解決を行うコツは、適切な問いを設定することにあり、そのための作業がフェーズ1~3で行うこと。フェーズ4~5で行うことは問いに対する答えを導くこと。そして、出力された答えを実行してR2に到達して初めて問題が解決されたことになる。

用語の定義は以上になります。このフェーズでは、問題、つまりR2-R1があるかどうかを確認するだけなので多くのことを学ぶ必要はありませんが、
これだけでは分かりにくいかと思いますので、具体例をいくつか並べましょう。

具体例①:大学受験生のケース
R2を東大文科二類合格、R1を駿台の東大実戦で総合偏差値40としましょう。この時、受験生が目標としているのはR1からR2に移動することです。このR1とR2のギャップが存在していることを確認するのが、フェーズ1で行うことです(このケースでは、R1とR2のギャップが存在しているので、フェーズ1は完了しました)。
そして、R1(=東大実戦で総合偏差値40)を生み出している要因は複数存在します。勉強時間が少ない、集中できない、どの問題集を買ったら良いのか分からない、問題集をどのように進めれば良いのか分からない、勉強の進め方は分かっているつもりだが正しいのかどうか分からない、理解力が低い、記述が苦手、処理能力が低い、時間が足りない、出題傾向を把握していない、などです。
これらが問題(=論点候補)に当たりますが、この情報だけでは何が論点(=解決することで大きく前進できる問題)か分かりませんね。したがって、フェーズ2や3を通して、論点を見つけ出します。
具体例②:就活生のケース
R2を外資投資銀行外資系戦略コンサルティングファームや五大商社内定としましょう。そして、R1(=現状)をよく理解していないと仮定しましょう。つまり、このケースは「自己分析ができていないがとりあえずエリートになりたい就活生」のケースです。
この時、R1とR2のギャップを生み出す要因は何でしょうか。面接で何を聞かれるか分からない、面接で何を言えば良いのか分からない、誰に相談して良いか分からない、OB訪問は何人すれば良いのか分からない、ESをどうやって書けば良いのか分からない、Webテの対策ができていない、そもそもR1(=自己分析)が曖昧、などがあります。書き出そうと思えば無限と思える程の量がリストアップされるでしょう。
フェーズ1ではR1とR2のギャップがあるかどうかを確認するだけですが、このケースではR1を明確にすることから始めます。こうすることで、理想と現状の差が明確になるので何をすべきかが分かり、論点を絞り込めるようになります。R1とR2が曖昧模糊なままでは何が真因か分からず、行動が先走ってあれもこれも手をつけてしまう羽目になるでしょう。
具体例③:オリンピックの金メダル獲得数を増やす方針を考えるケース
ケース面接ではこのようにR1とR2が曖昧な問題が出題されますが、こういう場合はR1とR2を仮説的に設定します。そして、さらに重要なこととして、R2(=オリンピックの金メダル獲得数を増やすこと)が本当にゴールとして適切なのかを検討する必要があります。つまり、なぜ金メダル獲得数を増やしたいのかということです。国の威信を上げたいのかもしれませんし、国民にもっとスポーツに関心を持ってもらいたいのかもしれません。となると、金メダル獲得数を増やすことは上位目的に対する手段でしかないわけですね。もしかしたら金メダル獲得数を増やすよりも、他に有効な手段があるかもしれません。
このように、R2が本当に正しいのか、なぜR2を目標とするのかを批判的に検討する必要があります。目的と手段を区別することで、解決する必要のない問題を避けて通ることができます。

具体例は以上となりますが、ここで、R2-R1の存在を確認する上でのステップを整理しておきましょう。
ステップ1:R1とR2が存在するかを確認する
ステップ2:存在するとして、なぜR2を目標とするのか、そもそもR2は本当に望むべきことなのか批判的に検討する。つまり、目的と手段を区別する。そして、R1が正しい情報なのか、バイアスがかかっていないかを検討する。
ステップ3:最後に、R1とR2は明確になっているかを確認する。もし明確になっていなければ、明確にすることから始める。ただし、R1は簡潔に記述すること。

フェーズ1で必要となる要素はR1とR2だけですから、このようなステップが発生することは当然と言えます。
また、なぜこのような順序になるかと言うと、問題解決がR1からR2に移動することだからです。そのためには、R1とR2のそれぞれが本当に正しいのかを批判的に検討して、その上で明確にする必要がありますよね。これによって無駄な作業を減らすことができます。
人間はバイアスがかかっていますから、R1を正確に把握できていなかったり(過大評価や過小評価など)、現実から目を背けてしまうことがあります。さらに、R2を計測可能な形で明文化できていないケースもよくあります。例えば、「仕事ができるようになりたいけど、イメージが曖昧としていてどこに向かったら良いのか分からない」というケースです。このようなケースは頻繁に見られますが、まずはR2を明確にすることから始めましょう。
もちろん、必ずしもこの方法や順序に従う必要はありません。あくまで便宜的な順序です。ハウツーに忠実な人は全ての目標を定量化したがると思いますが、僕は毎回そんなことをしてるわけじゃないです。流動的に(=臨機応変に)思考を働かせるのが良くて、スピード重視で問題解決することを意識しています。
ちなみに、「考える技術・書く技術」を読むとステップ2は明示的には書かれていません。しかし、p184に「R1,R2の定義は問題解決を進めていく上で何度かの修正を伴うのが普通です」と書いてあります。したがって、R1とR2を批判的に検討すること自体は本の内容と合致しています。基本的にはスピード重視ですから、R1とR2を暫定的に決めておき、あとで修正すれば良いやという態度で前進するのも有効です。定量化や明確化に足を引っ張られていては元も子もないですから。

●フェーズ2 問題はどこにあるか?

フェーズ2では、R1を引き起こした状況に遡ります。つまり、問題を引き起こしている要因を簡潔に記述することがこのフェーズでの目的になります。

まずは用語の定義をしましょう。
状況:スタートポイント+懸念される出来事
スタートポイント/オープニング:問題が発生する時間的・空間的状況。スタートポイント/オープニングには構造とプロセスの2つしかない。
懸念される出来事:スタートポイント/オープニング(構造かプロセス)で発生し、R1の引き金になるもの。懸念される出来事は、大きく分けて外的要因か内的要因か新しい認識のどれかになる。
外的要因:構造/プロセスを取り囲む環境から引き起こされる変化。例えば、新たな競合の出現や新たな技術への転換、政府方針や顧客の変化など。
内的要因:当事者自身により引き起こされる変化。例えば、ビジネスプロセスを増やした、新たなコンピューターシステムを導入した、新たな市場へ進出した、製品ラインを変更した、など。
新たな認識:変化が必要なことへの新たな認識。例えば、製品やプロセスの能力低下、水準以下の結果、顧客変化を意味する市場リサーチなど。

これだけでは分かりにくいかと思うので、いくつか具体例を並べましょう。具体例①②が構造に起因したR1で、具体例③④がプロセスに起因したR1です。

具体例①:パソコンが故障した
ある時、手持ちのパソコンが故障してしまいました(=R1)。あなたはその原因を探り、解決しようとしています。この時、R1を引き起こした原因はPCの構造、つまり、ハードウェアやソフトウェアなどのどこかにあるはずです。
このコンピューターの構造こそがまさにスタートポイントであり、この構造(=スタートポイント/オープニング)のどこかにR1の引き金となったバグ(=懸念される出来事)が存在しています。懸念される出来事は常にスタートポイント/オープニングの中に存在しています。

コンピューター

オペレーティングシステム


具体例②:会社で問題が発生した
会社組織における問題の原因には様々なものがありますが、各組織を分解することでどこに問題があるのか特定できることがあります。まずは下図をご覧ください。会社の成長が妨げられている要因が各組織の中のどこかにある場合、この構造(=スタートポイント/オープニング)の中のどこかにバグ(=懸念される出来事)が存在し、それがR1を引き起こしていると考えられます。R1は何らかの状況(=スタートポイント+懸念される出来事)によって生じていることがわかるでしょう。

組織ず

具体例③:今年度成長のかげり
あなたはある会社のオーナーであり、 30年間同じようなやり方で大きな需要に恵まれた商品を売っていたとします。例えば、産業用の不動産としましょう。セールスマンは単に有望顧客のリストを作り、説明資料を作成し、それを顧客に送付するだけです。 会社は異常と思えるほど良い業績を続け、 毎年10%以上も売り上げを伸ばしてきました。 ところが、今年の第4四半期に入ると、 どうもこの期は10%どころではなく10%ダウンの様相を呈しています。当然、会社にとってこのニュースは大きなショックであり、ともかく販売を元の成長軌道に戻すために、大至急可能な処置をとりたいと考えます。
図にすると下のようになります。

スタートポイント

この図におけるプロセス(=スタートポイント/オープンニング)によって会社はこれまで望ましい結果を得ていたのに、突然問題が発生してしまいました。
このケースでは、R1の引き金となったバグ(=懸念される出来事)がこのプロセスの中に存在している可能性があります。つまり、スタートポイント/オープニングの3つのステップのどこかにバグが存在し、それがR1を引き起こしているということです。
ちなみに、図をみると懸念される出来事が「次の四半期売上が10%ダウンと見込まれる」と書いてありますが、これは「新たな認識」のことですね。つまり、スタートポイント/オープニングの中で、何かが起こった、あるいは、何らかの行動が取られて(販売予測を試算した)、新たな認識が発生したということです。そして、その認識がR1を引き起こした(というより、R1があることに気づいた)と言えます。
スタートポイント/オープニングの中に存在するバグと表現すると語弊があるかもしれませんが、「懸念される出来事」は定義上R1を引き起こすものですから、新たな認識であろうが何であろうがバグであることには変わりません。

具体例④:勉強しても学力が上がらない
何かの試験を控えている受験生が行うことは、問題集を買ってきて勉強することです。これをプロセスの形式で図式化してみましょう。

スクリーンショット 2019-12-11 14.38.29

このプロセスがまさにスタートポイント/オープニングであり、もし成績が思うように上がらない場合、このステップのどこかに原因がある可能性があります。購入する問題集が試験に対して不適切だったり不要なものなのかもしれませんし、計画を立てるのが下手なのかもしれませんし、計画を実行できないのかもしれません。あるいはそれら全てかもしれません。いずれにせよ、スタートポイントのどこかにバグ(=懸念される出来事)が発生しているということであり、それがまさに「問題はどこにあるか?」を示唆するものです。

以上見てきたように、R1は特定の構造またはプロセスの中で発生します。そして、その中のどこかに懸念される出来事が存在しているということです。
このフェーズは、別の言い方をすれば、R1がなぜ発生したのかという要因分析に近いものです。しかし、細かい要因分析はフェーズ3で行うものですから、フェーズ2では要因を簡潔に述べるだけでいいのです。

さて、フェーズ1とフェーズ2はこれでおしまいですが、本の中には大事な項目がありました。それは、
①問題定義のフレームワークの図式化
②問題文の言語化(SCQへの変換)
の2点です。それぞれ解説していきましょう。

①問題定義のフレームワークの図式化
まずは下図をご覧ください。

スタートポイント

問題は三重構造にまでなることもある

これが問題定義を図式化したものです。
右側にV字でR1とR2のギャップを書き、左側にR1を引き起こした状況(=スタートポイント/オープニング+懸念される出来事)を書きます。
なぜこのように図式化するかというと、問題部分を視覚化することによって目に見える形で足場を築けるからですね。つまり、頭の中を視覚的に整理することができるということです。

②問題文の言語化(SCQへの変換)
定義された問題をSCQに変換しますが、そもそもSCQとは何でしょうか。SCQとは、
Situation(状況):読み手にとって既知の時間的・空間的状況
Complication(複雑化):状況の中で発生し、疑問の引き金となる出来事。読み手が知る最新の情報。
Question(疑問):複雑化によって生じた疑問文で表現される事柄
の3つのことです。
わかりにくいかと思いますが、SとCは読み手(1人で問題解決する時は自分)にとっての既知の情報であり、Qを生じさせるものです。そして、Qは読み手にとっての未知の情報であり、答え(解決策)を与えるべき疑問です。

SCQを構成することにより、疑問の由来、つまりなぜ読み手に疑問が生じたのか、どこから疑問が生じたのかがはっきりと見えてきます。
例えば、「この問題に対してどのような解決策が考えられるか?」という疑問があるとしましょう。この時、疑問に対する答えを早急に出すのではなく、なぜその疑問が生じたのかを明らかにする必要があります。例えば、利益が低下したなどです。これはComplicationに相当します。そして、そのComplicationがどのSituationで発生したのかを考えてみると、既存の利益構造(利益=売上ーコストなど)から発生していることがわかります。つまり、Situation(既存の利益構造)があり、その中で何かが起こり(利益が低下した)、それが疑問を生じさせたということです。
この例を見ればわかると思いますが、ComplicationとSituationは既知の情報になりますね。
このように、1つ1つ掘り下げをすることによって何故疑問が生じたのかを明らかにします。そうすることで、その疑問が本当に正しいのかどうか、解決策を与えるべきかどうかを明らかにすることができます。
順序を辿っていくと、QはCによって生じ、CはSの中で生じるので、疑問を見出した後にSituationとComplicationを辿ります。つまり、Q→C→SあるいはQ→S→Cの順で辿ると、それぞれが見えてきます。

ところで、なぜ既知の情報と未知の情報を明らかにする必要があるのでしょうか?答えは単純で、推論の定義が既知の情報から未知の情報を導くことだからです。
このことは、IQテストを思い浮かべれば容易に理解できるのではないでしょうか。IQテストでは、いくつかの図形や数列が与えられて「?」を推測する問題が与えられます。つまり、いくつかの図形(=既知の情報)から?(未知の情報)を導きます。
問題解決の文脈では、未知の情報はQuestion(=R1からR2に到達するための方法)に該当しますね。推論の定義に従えば、問題解決をするには現時点でわかっていることを手掛かりにして解決策を導く必要があります。なので、「今わかっていることは?」という問いかけをして、「そこから何が言える?」と示唆を出してみるのもポイントだったりします。

では本題に移りましょう。問題を定義した後にSCQに変換するにはどうしたら良いでしょうか?
これは、問題分野において読み手がどこまでその問題に精通しているかによって異なります。SとCは読み手にとって既知の情報で、Qは読み手にとって未知の情報だからですね。したがって、書き手は読み手がどこまで知っていてどこまで知らないのかをはっきりさせる必要があります。それによってSCQのパターンが変化します。

SCQのパターンは7通りあります。

SCQの7パターン

図を見て、「7つも覚えるのは大変だ」と思う方もいるかもしれませんが、これを覚える必要はありません。どのパターンを取っても、読み手はR1からR2に移動したいだけですから。それぞれを詳しくみてみましょう。

1.「目標と現状は分かっているけど、そのための解決策がわからない」というパターンですね。よくあるパターンです。例えば、今偏差値60で早稲田大学に合格したいけど、何をしたら良いの?と相談を持ちかけられたり、自分で頭を悩ませるパターンです。
読み手にとってはR1とR2、状況が既知の情報です。あるSituationの中で、Complication(R1とR2)が引き起こされており、そしてそのComplicationの中で、どうしたら良いのか?というQuestionが発生しています。
2.「目標に到達するために行動はしているけど、このやり方で本当に合っているのか?」と疑問に思うパターンです。例えば、英検準一級を取るために洋書を多読しているけど、本当にこれで英語力が身につくのか?と疑問に思うパターンですね。
読み手にとっては、正しい解決策かどうかが疑問ですから、その疑問を引き起こしているのは現在実行している解決策であり、その解決策は特定の状況、R1、R2の中で発生したものと言えます。
3.「目標に到達するための解決策は分かっているけど、どうしたらこの解決策を実行できるのか?」と疑問に思うパターンです。例えば、英検準一級を取るために洋書を多読していて、それが正しいのは分かっているけど、洋書を読むコツや方法が分かっていないケースですね。
読み手にとっては、どうしたら解決策を実行できるのかが疑問ですから、その疑問を引き起こしているのは現在実行している解決策であり、その解決策は特定の状況、R1、R2の中で発生したものと言えます。
4.「解決策を実行したが効果が上がらなかったので、R2に到達するための代替案を考えて欲しい」ということです。これは解決策そのものが疑問を引き起こしているというよりは、解決策を実行しても機能しなかったことが疑問を引き起こしているので、これがComplicationに該当し、読み手が知る最新の情報です。そして、解決策が機能しなかったことは、状況、R1、R2、解決策の中で起こっています。
5.「選択肢が複数あるがR2に到達するためにはどれが最善か?」ということです。このパターンの場合、Complicationは解決策の選択肢であり、それが疑問を引き起こしています。
6.「現状を変えないといけないことは分かっているが、目標や戦略が定まらない」ということです。これはよくありますね。漠然と今の自分のままではマズイことを理解しているが、目標や戦略が定まらないパターンです。
7.「目標は分かっているが、今の自分たちに問題があるのかどうかわからない」ということです。これもよくあるケースですね。

以上見てきたように、どのパターンをとっても読み手はR1からR2に到達したいだけです。1~7をよくみてください。解決策を求めるのも、正しいかどうか確認するのも、解決策の実行方法を尋ねるのも、代替案を求めるのも、全てR1からR2に移動したいから引き起こされている疑問です。
ですから、何が読み手にとって既知の情報で、何が読み手にとって未知の情報かを知ることができれば良いだけです。

SCQの話は複雑でわかりにくいかもしれませんが、イメージとしては数学や理科の問題文の作成ですね。例えば数学の問題では、

校庭に、南北の方向に一本の白線が引いてある。ある人が白線上のA点から西へ5メートルの点に立ち、硬貨を投げて、表が出た時は東へ1メートル進み、裏が出た時は北へ1メートル進む。白線に達するまで、これを続ける。
(1)A地点からnメートル北の点に到達する確率Pnを求めよ
(2)Pnを最大にするnを求めよ

といった問題が出題されますが、数学や理科の問題文には与えられた条件と求めるべきものの2要素が含まれています。つまり、与えられた条件をAとして求めるべきものをZとすると、数学の問題ではA→B→C→…→Zという道筋を作ることによって問題を解決します。
同様に、現実の問題解決でも、現状をR1、目標をR2として、様々な条件を考慮しながら、R1→…→…→R2という道筋を作ることによって問題を解決します。
そして、数学や理科と同様に、問題を言語化することによって自分や読み手の頭の中を整理し、効率的な問題解決を図ります。
例えば、「いま我々はR1の状況に陥っている。それを引き起こした構造/プロセスは○○であり、その中にR1を引き起こした原因がある。この時、R2に到達するための方法を提示せよ。ただし、条件は以下の通りとする。①〜②〜③〜」
といった感じで問題を文章化します。

イメージとしてはこうなりますね。あくまでイメージです。
図式化をしたら、SCQ(既知の情報と未知の情報)を意識しながら問題文を作成してください。

●第8章のまとめ

第8章では、
フェーズ1:問題はありそうか?
フェーズ2:問題はどこにあるのか?
について解説しました。
この章は、書籍では「問題を定義する」という名称づけがされていましたが、問題を定義するということは問題文を記述するということを意味しています。つまり、数学や理科の問題文のように、何が条件で、何が求めるべきもの(R2)で、何が現状(R1)なのか、R1が発生した状況は何なのかを文章として記述します。この作業を終えて初めて、要因分析や解決策立案の作業に取りかかることができます。
繰り返しますが、フェーズ1ではR1とR2を図式化し、フェーズ2ではR1が発生した状況を図式化します。

【第9章 問題分析を構造化する】



第9章では、フェーズ3〜5を扱います。
フェーズ3は問題はなぜ存在するか?つまり、問題が生じたいくつもの原因を図式化して真因を特定するフェーズです。
フェーズ4では、フェーズ3によって発見された真因に対して考えられる解決策の候補をいくつかリストアップし、図式化します。
フェーズ5では、解決策を絞り込んでただ1つの解決策を導きます。

●フェーズ3 問題はなぜ存在するか?


フェーズ3では、要因分析を行います。フェーズ2でも要因分析を行いますが、フェーズ3はそれをさらに深く掘り下げたものだと考えれば良いです。たとえば、フェルミ推定では、数量を求めるための全体像を表す式を作成したあと、その式をさらに分解していきますよね。それと同じです。なので、フェーズ2の段階でかなり大きな枠組みを作ってあげることが要因分析を効率的に行うコツになります。何となくそれっぽい要因をリストアップして構造化するのではなく、フェーズ2で明らかになった要因の全体像をさらに深く掘り下げていくことがフェーズ3のポイントです。

というか、連鎖分析プロセスはアブダクション(仮説思考)の推論順序にしたがったものですから、フェルミ推定は連鎖分析プロセスの解き方を反映します。フェーズ1:問題が与えられる。フェーズ2:式の全体像を作る。フェーズ3:全体像を掘り下げて仮の数値を入力する。フェーズ4:数値を修正するなどして、いくつか仮の答えを出す。フェーズ5:仮の答えを決定する

ですね。フェルミ推定を速く解ける人なら分かるかもしれませんが、連鎖分析プロセスによる問題解決は一見複雑に見えてスピード感のある方法です。

では、要因分析のイメージを掴むために以下の図をご覧ください。

頭痛がする

R1は「頭痛がする」ですが、それを引き起こす原因には様々なものがあります。図のように考えられる原因を網羅的にリストアップしたのち構造化(=要素分解して図式化すること)し、ただ1つの真因(=論点)を特定します。これが要因分析です。ここでは、風邪が論点に決まったと仮定しましょう。その場合は風邪を治すための解決策を考えて実行する必要があります。
また、ツリーの上位ポイントと下部ポイントの関係は、抽象と具体の関係にあるか、原因と結果の関係にあります。構造化の方法は詳しく後述しますが、この図では抽象と具体の関係にありますね。
では、要因分析の具体的な方法論について解説していきましょう。

本の中では、要因分析を行うためのフレームワークを「診断フレームワーク」と名付けています。これは臨床医の診断方法にちなんだ名前ですね。臨床医は、患者に詳細情報を聞いたりCTスキャンを行うことによって症状を引き起こしている原因を特定していきます。
これと同様に、種々の問題解決においても、想定される原因をリストアップして不要なものを消去して真因を特定する必要があります。このような類似点があるため、診断フレームワークと名付けられているのでしょう。

診断フレームワークには三種類あります。
①構造:物質的なものであれ、概念的なものであれ、全体を部分に分けるのが構造によるグループ化。具体例は後述する。
②因果関係:ツリーの上部ポイントと下部ポイントが結果と原因の関係になる
③分類:分類には二種類ある。類似性による分類と選択肢による分類。
前者は、ツリーの上部ポイントと下部ポイントが抽象と具体の関係になる。例えば、論点候補a1,a2,a3を共通する特徴Aでまとめると、Aという上部ポイントが発生し、それに対して具体部(a1,a2,a3)が連なる。
先ほど挙げた「頭痛がする」をR1とした図は、分類に基づいたグループ化である。
後者は、選択式のフローチャートをイメージすれば分かりやすいだろう。例えば、投資家適性を測る選択式のフローチャートでは、Yes/No形式で選択肢を分岐させ、あなたはバリュー投資に向いている、FXに向いている、不動産投資に向いている、債券投資に向いている、などの判定を行う。これとほぼ同じだ。ただ、ほぼ同じであるものの、これは要因分析のための選択肢ではない点が異なる。あくまでイメージを掴むためのとっかかりとして捉えてほしい。

では、それぞれを詳しく見ていきましょう。

①構造
構造によるグループ化とは、物質的なものであれ概念的なものであれ、全体を部分に分けることによるグループ化です。画像を貼りますので、参考にしてください。

組織の部門構成はもれなくダブりがない

新しい組織

地図

PCの構造

1枚目と2枚目の画像は組織図です。組織全体を各部門に分解しています。これは概念的なものの構造を分解した例ですね。
3枚目の画像はシナイ半島の地図です。地域別に分解されてますね。これは眼に見えるものの構造を図式化した例です。
4枚目の画像はPCの内部構造です。PCをパーツごとに分解するとこうなります。物質的なものの構造を分解した例ですね。

構造とは何か、イメージが掴めたでしょうか。
では構造によるグループ化について解説しましょう。
フェーズ2で述べた通り、R1は何らかの構造やプロセスの中で発生します。構造によるグループ化は、フェーズ2でR1が特定の構造に起因していることが明らかになった場合に用いられますが、このグループ化は、主に会社の組織図や流通システム、機械の構造を図式化する際に用いられます。まずは下図をご覧ください。

業務の構造を図式化する

この図は、小売店の業務(販売・マーケティング)を図式化した例です。
このように図式化することで、流通構造の中のどこに問題が潜んでいるのかがわかり、真因を特定することができます。
リストアップされた論点候補はこの構造の中に組み込めば良いのです。例えば、シェア低下(=R1)の原因の候補は、消費者に対する商品認知が不十分であることや、購入の動機付けが足りないことなどが考えられますが、これらの論点候補を構造の中に組み込むことによって論点候補を視覚化させ、論点の特定を容易にしてくれます。

別の例も挙げましょう。下図をご覧ください。

業界構造を図式化する


先ほどの構造よりもやや複雑ですね。
図をよく見ると上部に「経済面から見たレバレッジ・ポイント」と書かれており、下部に「市場から見たレバレッジ・ポイント」と書かれています。これは何かと言うと、サプライチェーンの中に存在する改善効果が高いポイント(=レバレッジ・ポイント)のことです。
レバレッジとはてこの原理のことであり、FXで頻出する用語ですが、ビジネスの場面では「少ない労力で大きな成果を出すこと」をレバレッジと言い、「レバレッジが利く」という用い方をします。この図では、レバレッジ・ポイントとして上半分に3つ、下半分に4つの要素が挙げられていますね。
このように構造を図式化して、「構造の中のどこにレバレッジ・ポイントがあるか」「構造の中のどこに付加価値があるか」「コストはそれぞれに対してどのように配分されているか」「利益や資産はどう配分されているか」などを組み込んでいきます。

②因果関係
因果関係によるグループ化は、特定の結果からそれを引き起こす原因を辿っていく方法です。因果関係によるグループ化は3パターンあります。
(1)要素の構造
これは、R1を引き起こしている要素を名詞で記述し、ツリー状にグループ化する方法です。下図を見てください。この図では、財務構造をツリー状で並べて整理しています。上部ポイントと下部ポイントが結果と原因の関係になっていることがお分かりでしょうか。つまり、ROIは営業利益や資産によってもたらされ、営業利益は売上と費用によってもたらされるということです。

財務構造を図式化する

もしあなたがROIの向上を図りたい場合、ROIを構成する要素である営業利益や資産を深堀りしていけば、その中のどこかにROIを上げるためのレバレッジ・ポイントが潜んでいるはずです。
しかし、この図のままでは名詞を並べているに過ぎないので論点を発見することができません。
したがって、現状の数字をツリー上に直接書き込むによって、R1(=ROIの低さ)を引き起こしている原因が売上低下によるものなのか、高いコストによるものなのか、商品要素によるものなのか、価格施策によるものなのか、といった判断をする必要があります。
つまり、どの要素が足かせになっているかが明白になり、論点を絞り込むことができるということです。
また、R2を引き起こす状態の数字(=各要素の理想の数字)はどうなっているかを直接書き込むことによって、ベンチマークを行うことも可能です。

(2)R2に到達するために必要なタスクの構造
これは、先ほどの要素の構造とは異なり、R2に到達するために必要とされるタスクやR2そのもの(この場合は、そのタスクを実行することがR2そのものとなる)を最上部ポイントに置き、そのタスクの達成をもたらすような行動を深堀りしていきます。
下の図では、1株当たり利益の増大が「営業利益と営業資産の増大」と「財務体質の強化」によってもたらされることが分かります。つまり、上部ポイントと下部ポイントは結果と原因の関係にあるということです。
また、このように図式化することによって、あなたがどんな行動が必要で、どんな行動が必要でないかを視覚的に整理することができます。

業務の必要タスクを図式化する

(3)R1を引き起こしている望ましくない活動の構造
これは、R1を引き起こしている活動またはR1そのものを最上部ポイントに置き、それを引き起こす活動を深堀りしていく方法です。(2)と同様に、上部ポイントと下部ポイントが結果と原因の関係になっていることがわかるでしょう。
しかし、(2)とは違い、(3)では各リストが否定的な言葉で記述されます。(2)がR2を引き起こすタスクを掘り下げるのに対して,(3)はR1を引き起こす活動を掘り下げるのですから、当然と言えば当然ですね。

望ましくない結果を生み出す


③分類
分類によるグループ化は、類似性による分類と選択肢による分類の二種類あります。では、それぞれ見ていきましょう。

(1)類似性による分類
そもそも、類似性による分類とは何でしょうか。類似性というのは共通する特徴のことです。
いくつか例を挙げて説明しましょう。
男女で言えば、70億人程度いる全ての人間を、「男という特徴持った人間」と「女という特徴を持った人間」の2つの共通要素を基準にして分類しているということです。
さらに、動物の分類は、全ての動物を「哺乳類という特徴を持った動物」や「爬虫類という特徴を持った動物」や「両生類という特徴を持った動物」などの共通する特徴を軸にして分類していますね。
これが類似性による分類です。
問題解決の文脈で言えば、リストアップされた論点候補を「この論点候補とあの論点候補は共通する特徴を持っているな。よし、じゃあこの2つを同じグループにまとめよう」とする知的操作のことです。
ちなみに、類似性による分類は抽象化(=共通点を抽出してグループ化)を伴いますので、上部ポイントと下部ポイントは抽象と具体の関係になります。

イメージは掴めましたかね。では、類似性によって分類する方法を説明します。下の図をご覧ください。

有りうる問題原因を分類する

「有りうべき」とは、「有り得る」という意味です。
この図は、利益低下(R1)を引き起こした要因(=論点候補)をリストアップして、それぞれの要因を共通する特徴でグループ化したものです。
例えば、右上を見ると、縮小する市場、店舗数/店舗所在地、店舗規模、店舗へのアクセスと書いてありますね。これらの各リストは準固定要因という共通する特徴を持っているので、分類によるグループ化が可能ということです。
誤解してる方が多いかもしれませんが、類似性による分類は因果関係によるグループ化とはやや異なります。
図における上部ポイントと下部ポイントは確かに結果と原因の関係になっているのですが、因果関係によるグループ化は共通する特徴による分類を行なっていません。その点が異なります。

(2)選択肢による分類
選択肢による分類は、望ましくない結果(=R1)を引き起こす原因をYes/Noで判定して探っていく方法です。図を見てください。

選択肢による分類

左下からスタートします。
もし販売サポートが効果的ではない(R1)なら、その原因は店舗レベル(1つ上)か商品本部レベル(1つ右)のどちらかです。もし店舗レベルで効果的でないなら、正しい店舗(1つ上)か間違ってる店舗(1つ右)かのいずれかが原因です。もし間違った店舗で効果が上がらない場合、間違った店舗選定自体が問題です(=店舗選定の時点で間違っていれば、その間違った店舗で頑張っても効果が上がらないということ)。 もし正しい店舗で問題が生じている場合、店舗訪問の頻度が正しい場合(1つ上)と不適切な場合(1つ右)とに分かれます。もし正しい訪問頻度の場合、訪問活動の内容が適切な場合(1つ上)とそうでない場合(1つ右)に分かれます。
このように、R1を引き起こした原因をYes/Noで判定していき、真因(論点)を絞り込みます。

この選択肢構造を作るコツは、選択肢を並べる順序です。論点候補を紙面上にリストアップしたら、各リストの関係を整理して時系列で並べ、このような選択肢の構造を作成します。
上の図では、販売活動の一連のプロセスを時系列で並べてると言えるでしょう。つまり、まず店を選定し(適切な店舗選定と不適切な店舗選定)、次に店を訪問(適切な訪問頻度と不適切な訪問頻度)し、活動を起こすというプロセスです。
この選択肢構造は複雑で難しいですが、時系列上のどこに問題があるかを探る上で強力な図式化です。
さらに、選択肢構造を発展させたものとして次のようなグループ化(連鎖マーケティング構造)もあります。

選択肢による分類(発展)

複雑なので一見しただけでは何を表しているのか分からないかもしれませんが、これは連鎖分析プロセスを選択肢構造で図式化しています。
フェーズ1では、問題(R2-R1)があるかどうかを確認します。
問題があるとしたら、全体の貢献度か?Noだとしたら、利益貢献率か?ブランド規模か?利益貢献率ではないとしたら、販売価格か?ブランド規模ではないとしたら、市場規模か?
このように、Yes/No判定をすることによって、問題があるかどうかを確認しています。
フェーズ2では、問題の所在を明らかにします。つまり、どのような状況(構造またはプロセス)から問題が発生しているかです。地域から起因しているのか?そうでないとしたら、流通チャネルか?といった具合にYes/No判定を行って問題の所在を特定して行きます。地域も流通チャネルもプロセスではなく構造ですね。
フェーズ3では要因分析を行います。図を見れば、ポジショニング→流通→認知→トライアル→リピート購入といったように、時系列の順序を反映していることが明らかでしょう。さらに、各ステップで選択肢を作成し、Yes/No形式による判定を行い、真因を特定しようとしています。
例えば、マーケティング・プログラムが適切ではないことを示すいくつかの分析結果が出たとしましょう。例えば、包装がよくない(流通)、広告の焦点がずれてる(認知)、販売促進活動がバラバラ(トライアル)、購入者は商品を十分な頻度で使用していない(リピート購入)などです。
ここでは、各ステップが時系列で並べられているため、左側で発見された問題は右側で発見された問題よりも優先的に解決する必要があります。つまり、購入者の商品の使用頻度を上げるよりも先に、販売促進活動を統制されたものにする必要がありますし、販売促進活動を統制するよりも先に、正しいセグメントに絞った広告を計画する必要があります。

以上で、論点候補をグループ化して図解する方法は終わりになります。
しかし、重要なことが3点あります。
MECE(ミーシー)
②論点候補を表現する方法
③論点の絞り込み方

です。
MECE
MECEとは、漏れなく(Mutually Exclusive)、ダブりがない(Collectively Exhaustive)ことです。つまり、図式上の各リストに見落としがなく、かつ重複するリストもないということです。
例えば、営業利益が低い原因を探すために因果関係のツリーを作成したとしましょう。この時、ツリー上に売上だけがリストされて費用がリストされてなかったら、真因を特定するのが難しくなります。
これと同様に、どのような問題を相手にするにせよ、漏れなくダブりなく原因をリストアップする必要があります。
ところで、MECE形式で原因をリストアップする必要性は何なのでしょうか?1つは、これまでに述べた通り、見落としを防ぐためです。
しかし、もう1つ重要な目的があります。
論点候補のリストアップの項でも述べましたが、抽象と具体の行き来をすることで異なる論点候補が浮上したり新しいアイデアが生まれることがあります。大事なことは、原因を漏れなくダブりなくリストアップするコツは抽象化であるということです。具体例を挙げましょう。

頭痛がする

これは前の項でも出した画像です。
あなたが、頭痛の原因は風邪だと思っているとしましょう。この仮定のもと行う抽象化は、「風邪は身体的要因だ」です。しかし、あなたはここで気づきます。「身体は精神と対比される語だから、身体的要因があるということは精神的要因もあるのでは?」と考えます。つまり、同じレベルの異なる論点候補が浮上したということです。そして、「身体的要因と言っても、体の内部と外側に分かれるな」と考えます。これで、風邪が身体的要因の中でも内的要因に分類されることが分かりました。しかし、あなたには気になることがあります。「風邪が内的要因に分類されることは分かったけど、他にも内的要因に分類される原因はありそうだな」と。そこで、抽象と具体の行き来をします。「内的要因に分類される他の要因は何だろうか?」と考え、脳腫瘍や水頭症があることに気づきます。
以上のような知的操作(抽象と具体の行き来)を行うことで、抽象部に連なる他の原因として何があるかを探ることができます。
リストアップされた論点候補に共通する特徴をはっきりと言語化することで、抽象と具体の行き来が容易になりMECE分類ができるようになります。

さて、ここまで読んで、「とてもこんなことは出来ない」と思った方もいるでしょう。そこで、MECE分類を行いやすくするためのフレームワークをいくつか紹介します。
上の画像では、「物理的(身体的)と精神的」のフレームワークと「外的・内的」のフレームワークが使われており、これらのフレームワークによって抽象化が行われています。
もちろん、下図に書かれているフレームワークさえ覚えればMECE分類ができるようになるわけではありません。問題状況をよく観察し、臨機応変MECE分類する必要があります。しかし、フレームワークを覚えておくことでMECE分類が非常に楽になることは間違いありません。

フレームワーク

フレームワーク2

MECE分類がうまく出来なかったり、抽象部に連なる他の具体部が思いつかないこともあるでしょう。そういう場合は、虫食いのツリーを作りましょう。ツリー上に「?」などと書いておきます。こうすれば、未知の情報に足止めを食らうことなく論点特定の作業を前進させることが出来ます。
最後にフレームワークを用いる際の注意事項を説明しておきます。フレームワークを使うタイミングですが、フレームワークは論点候補をいくつかリストアップした後に使ってください。問題を与えられるやいなや、いきなりフレームワークで整理しようとする人がいますが、フレームワークに囚われた思考しかできなくなり、かえって視野を狭くしてしまいます。つまり、思考の盲点を発生させてしまうということです。用法・用量には十分気をつけましょう。

②論点候補を表現する方法
論点候補はあくまで現時点で原因であろうと思われる仮説でしかありません。そして、仮説は検証されるべきです。したがって、論点候補は検証可能な表現で記述する必要があります。
検証可能な表現とは、Yes/Noで表現される仮説のことです。論点候補を検証する際、論点候補が「どのように機能を再構築すべきか?」と表現されていたら、仮説の検証のしようがありません。一方、仮説が「機能を再構築すべきか?」といったようなYes/Noで判定が可能な表現になっていれば、仮説の検証は非常に楽なものとなります。
これは、フェーズ1で言及した論点(real problem)と課題(issue)の定義の違いと同じですね。論点には、論点ではあるが課題ではないもの(=Yes/No疑問文ではないもの)と、論点であり課題でもあるもの(=Yes/No疑問文であるもの)の2つがあります。検証を容易にするために、各論点候補はissueの形式で表現しましょう。
一応補足しておきますが、情報収集やリサーチはあくまで検証のために行うものであって、仮説を構築するために行うものではありません。
多くの人は順序が逆になっています。つまり、情報収集をしてから仮説の構築をしているということです。しかし、これではどこまで情報を集めれば良いのか見当がつきませんし、作業の8割〜9割程度の時間を情報収集に費やす羽目になってしまいます。
ですから、この順序を入れ替えましょう。まず最初に仮説を立てて、その仮説の検証をするために情報収集をすれば良いのです。そうすれば、情報収集に費やす時間は2割程度に削減されるので、結論を導いて実行に移すまでの時間が非常に短くなります。
論点候補を検証可能とするためにYes/No疑問文で表し、情報収集はあくまで検証のために行いましょう。

③論点候補の絞り込み方
これは本には書いていない方法ですが、論点候補を消去する方法には以下の3通りの方法があります。
①直観力ベース:既知のファクト(現象や観察事実)、経験、勘に基づいて、容易に消去できる論点候補から順に直観で消去していく。あるいは、「これだ」と思う論点を直観的に見抜く。
②論理力ベース:矛盾を見つけて論点候補を消去する。これには2つの方法がある。
(1)因果関係:「論点を解くことによって直接的に結果が得られる」と確信するまで論点を批判的に捉える。これは、行動のステップで因果関係を言語化して論理的な飛躍がないかどうかを確かめれば良い。例えば、年収1,000万以上の男と結婚すれば幸せになれると考えている婚活女子がいるとする。
この考えに論理的な飛躍がないかどうかを検討するために、ステップ形式で女性の頭の中を記述してみよう。
STEP1:年収1,000万以上の男性と出会う
STEP2:その男性と仲良くなり、付き合う
STEP3:数年後あるいは数ヶ月後、結婚する
STEP4:幸せになれる
このような時系列が存在するが、STEP3とSTEP4の間に論理的な飛躍がある。
結婚する→幸せになれるは本当に正しいのか?
年収1,000万以上の男性と結婚することで直接的に得られる結果は、年収1,000万以上の旦那を持つということだけだ。幸せになれると考えているなら、それはバイアスでしかない。
この女性のように、風が吹けば桶屋が儲かる的な発想をしている方は非常に多い。結婚して幸せになれるかどうかは間接的(=副次的)な結果にすぎない。
このように、因果関係を言語化して直接的に結果が得られるか?を批判的に検討することによって、論点候補を絞り込むことができる。
(2)比較:条件を同一にして他の業界や企業、人と比較してみる。「同じ条件・状況でも他の企業には当てはまっていない」と分かれば、論点候補から外すことができる。
例えば、利益低下の原因を探るケースを考えよう。この時、まず最初に考えることは、「同じ業界の競合他社も全て利益低下しているのか」である。もし利益が低下していない会社があれば、業界全体から来る原因ではなく、企業固有の問題であることが分かる。
③リサーチベース:直観力を駆使しても論理力を駆使しても消去できない論点があった場合、詳細を知っていそうな人(専門家など)にインタビューしたり、問題の依頼者にインタビューしてみたり、誰かとディスカッションしてみたり、インターネットや文献を参照して絞り込む。

最初は直観力ベースで絞り込みますが、直観で消去できないような判断の難しい論点は論理力を駆使して消去します。それでも判断できなければ、リサーチを行って絞り込みます。もちろん、順序に決まりはありませんので臨機応変に絞り込んで下さい。

●フェーズ4 問題に対し何ができるか?

フェーズ4では、解決策をリストアップしてロジックツリーの形式で図式化します。例を挙げますので、下図をご覧ください。

業務の必要タスクを図式化する

解決の選択肢を図式化する

1枚目の図において、直接労務費を減らすことが論点に決定されたとしましょう。つまり、直接労務費が解決策を与えるべき真の問題だということです。
2枚目では、論点をロジックツリーの最上部ポイントに配置しています。その論点に対して、考えられる解決策をリストアップしてツリー状に図式化しています。
ただし、ロジックツリーの1段目は解決策を表すものではなく、直接労務費を要素分解したものです。これは、大論点を中論点や小論点に分解したものだと捉えればわかりやすいでしょう。
目標達成においても、ゴールをサブゴールに分解しますよね。例えば、東大合格をゴールとしたら、サブゴールは「模試で偏差値○○を取る」「この問題集を○月までに終わらせる」などになります。
ロジックツリーもそれと同じです。大論点(=直接労務費を減らす)を要素分解して、中論点や小論点にブレークダウンします。そのあとに解決策を述べていきます。
上の図では、タバコ一本あたりのコストを、
コスト/時間 × 時間/タバコ =コスト/タバコ
に分解しています。つまり、1時間あたりのコスト×タバコ一本当たりの時間数です。
その後、それぞれを削減するための解決策をいくつか提示していきます。

このロジックツリーはイシューツリーと似たようなものですね。

●フェーズ5 問題に対して何をすべきか?

フェーズ4で解決策が出揃ったら、次にそれらを絞り込んで実行すべき解決策を定めます。解決策を絞り込むには、それぞれの利点やリスクを評価します。
本に書いてあることはこれだけですね。フェーズ4までの段階で問題解決の90%くらいは完了しているので、このフェーズでは取り立てて学ぶことがないのかもしれません。
ですが、個人的にオススメの絞り込み方があります。それは以下の通りです。

①資源(時間やお金、人材など)的に実行可能か
②実行可能として、効果がどれくらい見込めるか(つまりインパクトがどれだけ大きいか)

この順で絞り込んでいきましょう。実行可能ではない解決策は、真っ先に消去します。次に、インパクトによる絞り込みを行います。実行可能な選択肢の中で、インパクトが最も大きいものが望ましいですね。

●おまけ

書籍の第9章では、「課題分析を実践する」という題名の見出しがありました。これについても解説しておきましょう。下の画像の内容を解説します。

課題分析を実践する

歴史

中間所得者層向け住宅

望ましい選択肢という観点から

部分ごとに分けて解説します。

1枚目(「歴史」より上):これは解説不要ですね。issueについては、既にフェーズ1で解説しました。
1枚目の「私の知る限り」〜2枚目の「恐れがある時」:「課題分析=複雑な状況下での意思決定分析のために開発されたテクニック」と定義されてますね。基本的に、筆者のイイタイコトはそれだけです。で、この定義の言い換え表現を整理すると、
①複雑な状況下での=以下のような状況下で=5つの箇条書きで示されている状況
②意思決定分析=自分の選択肢を明らかにすること、意思決定の合理的裏付けをもたらすこと
ですね。わかりやすく言えば、「課題分析=複雑な状況下において合理的な根拠を持って決断・行動するためのテクニック」という程度の意味でしょう。
2枚目の「たとえば」〜「開発されました」:課題分析の具体例として、ニューヨークで中間所得者層向けの住宅建設を計画する場合の話を挙げていますね。この段落では、状況の複雑さについて言及されています。たとえば、多くの選択肢が存在すること(箇条書きの2つ目)や、どのような決定をしようが他の政策分野の方針との間に何らかの問題が生じること(箇条書きの5つ目)です。
2枚目の「課題分析プロセスで」〜3枚目の「ならないことになります」:2枚目の段落では、課題分析の最も重要なステップについて説明されています。ステップごとに整理しましょう。
STEP1:方針分野の時系列チャートを作る
STEP2:それぞれのステージごとに、主たる意思決定要素(MDV)を明らかにする
STEP3:いくつかの仮説を設定し、その仮説に対してMDVと目的達成の影響関連性を記述する
STEP4:目的達成との関連性が極めて重要と判断したMDVの観点に基づいて最終の意思決定をする

このステップの例として、3枚目の画像が与えられています。この画像について解説しますね。
まずはSTEP1。方針分野=中間所得者層向け住宅建設の時系列チャートになっていることを確認して下さい。
次にSTEP2。それぞれのステージごとに、MDVが▶︎で明らかにされていることを確認して下さい。▶︎はいずれも、それぞれの意思決定に影響を与える「主な」要素です。箇条書きも恐らく意思決定に影響を与える要素だとは思いますが、影響度合いが低く見過ごしても良いようなもの、つまり「主なものではないもの」を箇条書きで表しているのでしょう。
次にSTEP3。「MDVと目的達成の影響関連性」は図で明記されていませんが、MDVが与える目的に対するインパクト(効果、影響度合い)を記述するということでしょう。3枚目の段落を見ると、MDVの一例としてテナント選定方針が挙げられています。テナント選定方針は重大なMDVであるということですね。
最後にSTEP4です。「目的達成との関連性が極めて重要と判断したMDVの観点に基づいて最終の意思決定を判断する=テナント選定方針の観点に基づいて最終の意思決定を判断する」ですね。そして、「最終の意思決定を判断する」ために、図表52を用います。図表52は書籍で説明がほとんどないので省略します。

全体の流れを整理すると、課題(issue)の定義→課題分析の定義→課題分析の具体例(複雑な状況の例+課題分析を実践する上で最も重要なステップ)
という流れですね。

【追補A 後半】

追補Aでは、「構造なき状況下での問題解決」が章タイトルになっていました。これはどういうことかと言うと、これまでの問題解決の方法では構造化(=図式化)できることが前提となっていましたが、問題の中には構造化ができないものがあるということです。発明を行う時はまさにその典型ですね。まあ構造があろうとなかろうと、用いるべき推論パターンは変わりません。アブダクションです。アブダクションでは、結果→ルール→ケースの順序で推論するのでした。
ではまず最初に、この章で使われる言葉の説明をしておきましょう。
分析的問題解決:第8章と第9章で用いられた問題解決パターン。結果とルール(=構造)の2つが存在するので、そこからケースを導くだけ。
科学的問題解決:分析的問題解決とは異なり、結果しか存在せず、ルール(構造)とケースが未知。

科学的問題解決ではルール(=構造)が存在しませんから、ルールを仮説設定する必要があります。つまり、「このような構造が考えられるだろう」ということを仮説的に設定します。この時、仮説を検証可能なものとするために、仮説をYes/No疑問文で表現します。
次に、仮説を排除するための実験、つまり検証方法を考案します。
その次に、検証を実行します。
最後に、仮説を追加したり変更しながら、検証の手続きを繰り返して結論を導きます。
具体例は下図を参照してください。

科学的問題解決の例

結果は、現実に起こった出来事です。この例では、「大砲を弾で撃てば、力が止まった後でも弾は飛んでいく」です。
ルールは、世の中のものが形作られるその方法についての考えです。つまり、結果を引き起こす構造です。科学的問題解決では結果を引き起こす構造が分からないので、ルール(=構造)を仮説的に設定します。
ケースは、個々の具体的な事例です。この図では、検証のことを指しています。

何だか仰々しいですが、分析的問題解決と科学的問題解決はどちらも推論パターンがアブダクションなので、方法に大して違いはありません。

分析的問題解決と科学的問題解決

一つずつ解説します。

フェーズ1では、理論上得られる結果(=R2)と現実に得られた結果(=R1)との不一致(=ギャップ)があるかどうかを明らかにします。

フェーズ2では、その不一致(=ギャップ)の原因となっている既存理論上の仮定を述べます(=既存理論をもとにして原因の仮説を立てる)。分析的問題解決と混同しやすいので整理しましょう。

分析的問題解決→結果を引き起こしてる、現状を構成する要素を図に書く→R1を引き起こしている状況(スタートポイント/オープニング+懸念される出来事)を述べる。つまり、R1を引き起こしてるルール(=世の中のものが形づくられるその方法についての考え)を、既知の情報をもとにして仮説的に述べる

科学的問題解決→その不一致の原因となる既存理論上の仮定を述べる→R2-R1を引き起こしているルールを、既存理論をもとにして仮説的に述べる。

ほぼ同じですね。2つの違いは、分析的問題解決ではルールが存在するが、科学的問題解決ではルールが存在しないということです。

フェーズ3では、不一致を排除して結果を説明できると考えられる代替仮説を述べます。つまり、R1(=現実に得られた結果)を生み出す原因の仮説を述べます。「こういう理由でR1が起きたのでは?」ということです。分析的問題解決でも、フェーズ3はR1を引き起こした要因の分析でしたね。

フェーズ4では、仮説の検証をします。検証を繰り返すことによって誤った仮説を消去していき、正しい仮説を絞り込んでいきます。これは、分析的問題解決では、フェーズ3の検証に該当する内容です。

フェーズ5では、文字通り検証結果に基づいて理論を再構築します。

以上ですが、ほぼ同じですね。2つの違いは、ルールが存在するかどうかと、解決策を述べるかどうかですね。科学的問題解決では解決策を述べる必要がないので、実質的には分析的問題解決のフェーズ3までの内容で済みます。

で、大事なことはこの「科学的問題解決」をいつ使うかなんですが、これは構造がない問題であれば適用可能です。構造がない問題って沢山あるんですよね。特に、種々の発明(アプリ、商品、サービスなど)が当てはまりますね。要するに、創造的な問題のことです。

また、今ビルゲイツが取り組んでいるような貧困問題の解決等の地球規模の複雑な問題であっても、科学的問題解決の方法論が適用可能かと思われます(これはただの仮説です)。まあ問題と名が付くものであればなんでも、解説noteの方法と補足noteの方法が適用可能でしょう。

星渉『神メンタル「心が強い人」の人生は思い通り』

 

私たちが毎日行っている選択や行動は、複雑な「心」によってもたらされている。

例えば、損失回避の法則保有効果

人は何かを失う可能性があると思うと、リターンを得るために行動するよりも現状を維持しようとする。今のままでいようとすることがほとんどである。

また確証バイアス(偏見)によって「今のままの自分が正解」という確証を集めて、そう思い込む。

しかし、逆に考えればこれまでの毎日と違う選択と行動をすれば人生は大きく変わる。今の自分はこれまでの自分の選択と行動の結果なのだから。

 

【思い通りに生きる公式】

現実(未来)=目的地 × 手段 × メンタル

思い通りに生きるには、まず目的地を決めることが大事。

飛行機(自分)が目的地に性格にたどり着くためには、

①「ここ以外ない」というくらい目的地を明確に設定すること

②目的地から常に目を逸らさない(忘れない)こと

 この2つがとても重要。そして実現のための手段は自動的に見つかるもの。手段探しに疲弊することは時間の無駄。

結局はメンタルが最重要

メンタルとは心であり、脳である。思考や感情は、脳が作り出すもの。

自分にはできないという発想が先行してしまえばいつまで経っても実現は困難。

ではなぜ私たちは自らの変化を止めようとするのか。

これを「心理学的ホメオスタシス(恒常性)」で説明することができる。人は自分が生きること=死なないことを最重要と考えるように脳にインプットされている。ゆえに何か新しいことを始める時には不安を感じるのだ。自分の変化を妨げる力の存在を知るだけで対処方法を考えることができる。自分が変化することを許容することができる。

人生を変えるために必要な情報は目の前にあるのに、なぜ気付かないのか?心理学的にいうとカラーバス効果という。赤いものだけを見ろ、と言われるとそれしか探さなくなる。目の前に金色のものがあったとしても気付かない。

自己評価にも同じことが言える。「自己評価」を変えない限り、無難な毎日からは永久に抜け出すことはできない。

変化は楽しい!新しいことは楽しい!という思考で判断することが大事。

未来体験シートの書き方

①五年後、三年後、一年後、半年後の自分の未来を書く

②完了形で、測定可能な形で書く

③いつまでに、など制限を書かない

書き終わったら「なぜやるのか」を考える。実現する理由が見つからないのであれば、それはまだ今やるタイミングではないのかもしれない。

未来体験シートを作り終わったら、自分が実現したい理想の画像(最低30枚)を毎日見る。

何かを習慣化するには、ちょっとの行動をしてみること。何かいきなり新しいことをするのは無理があるので、今ある習慣に付け加えてみることも大事。

 

ここまでで目的地が明確になり、ついにそこに向かって進み出した。しかし目の前にチャンスが現れたとしても「自分にはできない」と思ってしまえば、人生を変える大きなチャンスを逃すことになる。自己評価が伴っていれば、自動的に能動的に行動を起こせるようになる。

ポイントは「今この瞬間」を「今のままの自己評価」で生きるのではなく「未来の自己評価」で生きること。

現実は自己評価に追いついてくる。なぜなら脳は理想と現実のギャップを埋めようとするから。未来を明文化することで自分の心が大きく変化する。

現実の自分に強い違和感を覚えること。それによって違和感を解消しようと行動を起こす。行動をしていった結果、未来が現実になる。

自己評価 = 自己肯定感 × 自己効力感

自己肯定感とは、どんな自分でも好きだと思えるかどうか。

自己効力感とは、自分はできると思えるかどうか。自分自身に対しての能力評価。

現実と自己評価のギャップから生まれる違和感。それを解消しようと努力せず行動を起こして現実を変える。 

 

そしてさらに確実に現実を変化させるために必要なことが、「自分には必ずできる」「自分は必ず実現できる」という思い込み。

これを強化するのがアファメーション。肯定的な言葉を自分に投げかけることで、思考を変えていくこと。

ポイント①現実的な目標を宣言する

あまりにも現実からかけ離れた内容だと、内側からの変化への意欲が湧いてこないから。現実的な内容にすることが大事。

ポイント②肯定的な言葉で宣言をする、現在完了形で書く、臨場感を持つ

ポイント③手で書く

手で書くことは脳へ与える刺激が強い。目標を紙に書くことで現実になりやすくなる。

 

言葉の力は強い。「でも」「だって」「わからない」「難しい」「できない」を禁止する。この言葉を使わないことで、自分が認識できるチャンスや機会の幅が広がる。

また普段付き合う人も大事。自分が目指す成功を遂げている人と関わることで、成功の仕方が分かってくるから。しかし成長や成功を追い求めすぎて大切なものを見失うことがないように。

不安や悩みを抱えたら紙に書き出すことも大事。アドバイスする自分と相談する自分の会話を書き出すと自然と解決策が見えてくる。

 

イチロー本田圭佑選手はメタ認知能力」が非常に高いことで有名。

自分の斜め上にもう一人の自分がいて、自分が地に足がついているかどうかを見ている。客観的に自分を見つめることができるといつだって冷静でいられる。

できることが増えて自分を好きになる→自分を知る→自分を愛する→自分の未来を描く

この好循環によって自分ができることを増やしていくことが大事。

また全ての出来事は見方次第。全ての出来事に良いフレーミングをすること。

出来事に対して「ラッキー!」「ついてる!」「ありがとう!」を口癖にする。

知識は知っているだけでは意味がない。学ぶために教えると身に付く。

自分の幸せ軸から目をそらさない。お金や地位だけでは幸せにはなれない。

自分が幸せに感じる瞬間を見逃さないこと。

橘玲「人生は攻略できるー君たちはこれからどう生きるか?」

「人生は攻略できる」

 人生をRPGのような世界観で捉えて、攻略法を伝授する。そんな本だった。

これまでの日本人の人生設計は、いい学校を卒業し、終身雇用が保証されている中で、大企業に長く勤めて、老後に年金をもらうというモデルだった。

 しかし、これらはすでに少子高齢化や年金支給開始年齢の引き上げによって崩壊した。友人の学生起業家は揃って「日本オワコンだよね」と言う。まあ、わからなくはない。でも私は日本が好きだ。経済的に豊かで、社会的規範がしっかりしていて、日本語という小難しい言語を一億人も喋っている。こんな変わった国、好きにならずにどうする。

 とはいえ、日本の未来がめっちゃ明るいとは言い難い。若者がどんどん少ないのなら、少数精鋭で頑張って行こうじゃないか。一人一人が社会のために力を尽くすことがいい未来を引き寄せると、私は本気で信じている。そのためには自分の人生を充実させることが肝要だ。では、私たちはどう生きるべきなのか。

 

 全てのゲームには攻略法がある。

ここでこうすべき、という鉄則と、これだけはやってはいけないという禁止の組み合わせ。これを守れば大成功とは行かずとも、ゲームを有利に進めることができる。

 (中略)人生のゴールは幸福になることだ。幸福の定義は人それぞれ違うだろう。そこに優劣はない。それでもほとんどの人が同意する幸福の定義はある。

①好きなことを夢中でやって、今が楽しい

②後から振り返って「幸福だった」と思える

そしてこの2つはつなげっている。好きなことに夢中になるのが「やりがい」で、それが積み重なると「生きがい」になり、それを後から振り返って幸福な人生だと思うのだ。

(中略)

①お金(金融資本)②仕事(人的資本)③愛情・友情(社会資本)

幸福はこの3つの資本の上に作られる。その組み合わせかたは人によって異なるだろう。

「幸福の土台」を手に入れるために必要なのは、新しい時代のルールを理解して、大事なところで正しい選択をすることだけだ。これで人生は攻略できる。 

私たちは目指すべき人生戦略は、

大きな人的資本、大きな金融資本、小さな愛情空間、そして広大な貨幣空間に広がる「友達ネットワーク」を持つこと。

人的資本(仕事)は「好きなこと、得意なこと」に一極集中する。圧倒的に努力できることは好きなことor得意なことだから。会社に所属しながら、またはフリーランスでプロジェクトに参加する形で仕事を行う。その時に重要になるのが「評判・信頼」だ。

金融資本はグローバルマーケットに分散投資する(借金を背負ってマイホームという不動産に一極集中させない)社会資本は夫婦と子供の小さな愛情空間・友情空間と、世界中に貨幣空間(友達)ネットワークを作ること。

 

この本を読んで一番刺さったのは、「自由とは、国家にも、会社にも、家族にも依存せずに生きていくのに十分な資産を持つことである」という言葉だった。

経済的自由を手に入れることが今の私にとって至上の命題なのだ、、と感じた。

親や未来の旦那さんに依存して、自分の意思を貫き通せないような状況になってはならない。これがしたい!と思った時に、自分の意思でやり遂げられる自分になりたい。日本だけでしか生きていけない人間ではいけない。会社に魂を売ったサラリーマンにはならない。そう固く決意できた本だった。 

 

人生は攻略できる

人生は攻略できる

  • 作者:橘 玲
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2019/03/07
  • メディア: 単行本